2005年1月19日から東京ビッグサイトで開催された「第1回国際燃料電池展」では,ダイレクトメタノール方式の燃料電池(DMFC)で課題となっているメタノールクロスオーバー(燃料極側から空気極側へメタノールが透過する現象)を低減する炭化水素系電解質膜の出展が相次いだ。目立ったところでは,日立化成工業,トクヤマ,三井化学,日東電工,東亞合成がそうした膜を出品した。
日立化成工業が出展した膜は,従来のフッ素系膜に対してメタノールクロスオーバーを1/100に低減するもの(図1)。30℃,10質量%のメタノール使用時でメタノールのクロスオーバーは0.002kg・m2/h,フッ素系膜の場合は同0.6kg・m2/hという。「60℃でもほぼ同じレベルを達成」(同社)しており,プロトン伝導度を膜厚で割った膜抵抗でも「フッ素系の膜をやや上回る」(同社)としている。同社は,10~20質量%のメタノールを使うことを想定して同膜を開発しているが,最終的には最も効率が高いとされるメタノールと水が等モルとなる60質量%くらいのメタノールを使った場合を想定し,開発を進めていくとしている。
トクヤマが出展したのは,フッ素系膜に対してメタノールクロスオーバーを1/5~1/10に低減するというもの。膜抵抗(3モル/Lの硫酸中における1kHzの交流に対する抵抗)は,膜厚30μmの「BCM-210」の場合で0.18Ω・cm2,膜厚32μmの「BCM-211」の場合で0.14Ω・cm2,プロトン伝導度はフッ素系膜とほぼ同じとしている。三井化学の場合も,フッ素系膜に対しメタノールクロスオーバーが約1/10,プロトン伝導度が同等という芳香族炭化水素系の膜を出品。東亞合成も,ポリオレフィン系の多孔質膜に炭化水素系の電解質を充てんしたという炭化水素系の膜を出展しており,メタノールクロスオーバーはフッ素系膜の1/5~1/10としている。
これらに対し,日東電工が出展したのが,フッ素系膜と炭化水素系を融合した膜。フッ素系の材料に電子線を照射してそれらを架橋させ,さらに電子線を照射することで水素やフッ素を引き抜き,そこに炭化水素系の材料をつけてスルホン化する。メタノール濃度が40質量%の場合で,メタノールクロスオーバーはフッ素系膜の1/5。その場合のプロトン伝導度はフッ素系膜並みという。
日東電工は,これに加えて東亞合成のように多孔質のオレフィン系基材に炭化水素系の電解質を浸透させた電解質膜も出展した。これは,高分子固体電解質型燃料電池(PEFC)向けに水素ガスのクロスオーバーをフッ素系膜の1/6以下に低減したものだが,DMFCの電解質膜にも応用可能という。逆に,これまで紹介したDMFC用の炭化水素系膜は,いずれもPEFCへ応用可能なものであり,例えばトクヤマでは,同じ材料設計の技術を使って開発したPEFC用の炭化水素系膜を出品していた。
こうした炭化水素系を使った電解質膜のコストは,いずれもフッ素系膜以下としている。量産時には,日立化成は「フッ素系の1/10くらいを目指す」としており,トクヤマは「フッ素系の1/5くらいであるが,1/10~1/20まではいけると考えている」という。日東電工は「フッ素系よりは安くしないとけいない」としている。
さらに,こうした炭化水素系の電解質膜と電極の親和性を上げるために,電極のバインダ材料として炭化水素系のものを提案していたのが,トクヤマと三井化学である(図2)。DMFCやPEFCの電極は触媒とそれを担持するカーボンをバインダで固めて作るが,そのバインダと電解質膜の親和性が悪いと,それらの密着性が落ちる。従来は,電解質膜と同様,電極のバインダもフッ素系のものが通常だったが,両社はそうした親和性を考えて炭化水素系のバインダを提案した。 |