日立製作所 中央研究所は,世界初となる光信号の16値変復調器を開発し,40Gビット/秒の伝送速度で動作することを確認した。現在開催中の電子情報通信学会(信学会)2005年総合大会(大阪大学,2005年3月21日~24日)で発表した。これまでの光の多値変調は8値が最大だったという(図1)。
今回開発したのは,光信号の位相を変調するQPSK(quadrature phase shift keying:4位相偏移変調)と振幅を変調するQASK(quadrature amplitude shift keying:4値振幅変調)を組み合わせた「光16値APSK(amplitude phase shift keying:振幅位相変調)」という変調方式。振幅と位相を変調する点では16値QAM(quadrature amplitude modulation:直交振幅変調)に似ているが,まったく異なる方式である。
16値QAMは搬送波として互いに直交したI信号/Q信号を組み合わせて利用する。受信にフォトダイオードを使う光通信ではこれができない。「光信号を(受信側で)直交成分に分離するのが困難」(日立製作所)であるためである。
光16値APSKの変調の手順も電気信号の変調とは大きく異なる。具体的には最初の1ビットに(1)位相変調器で(0,π/2)の位相を割り当てる。次の1ビットから(2)Mach-Zender(MZ)変調器を使い,そのままとするか位相を反転させる(πだけずらす)。これでQPSKとなる,(3)この光信号にMZ変調器でQASK信号を加える,という方法で変調する。
受信機側での復調は,まず信号を3分割し,ASK用受信器,2台のPSK受信器に入力する。PSK受信器は,「1ビット光遅延検波器」と,2個のフォトダイオードを組み合わせた「バランスドレシーバ」で構成し,フォトダイオードの受信信号の差分を取るなどして位相情報を読み取る。「位相情報は1個のフォトダイオードでは読み取れない」(同社)。
日立製作所は,単に多値化しただけでなく,周波数利用効率も上がっていることを確かめた。今回のシンボル速度は10Gビット/秒。1シンボルあたり4ビットの情報を載せるため,伝送速度は40Gビット/秒となる。この時の占有周波数幅は,およそ33.8GHz。一般的な10Gビット/秒通信の23GHzに比べて1.47倍に増えたが,伝送速度は4倍になっているからである。
現在,光通信の高速化は,WDM(波長多重分割多重)を使うものが主流となっている。しかし日立製作所は「波長多重だけでは限界がある」という(図2)。変調方式を多値化できれば,1波だけでも高速化が可能になる。 |