東芝は,次世代無線LAN規格「IEEE802.11n(以下,11n)」に向けた,高速かつ効率的な通信を実現するMAC層の仕様を開発した。現在開催中の電子情報通信学会(信学会)2005年総合大会(大阪大学,2005年3月21日~24日)で発表した。11nの草案を作成している業界団体の1つである「TGn Sync」に提案済みで,一部は採用が決まっているという。11nは現在標準化作業が行われており,今回の東芝の仕様が同規格の一部になる可能性がある。
同社が開発したのは,(1)20MHz幅と40MHz幅のチャネルの通信が衝突するような場合に,できるだけ有効にチャネル資源を端末に割り振って両通信を共存させる仕様,(2)「Frame Aggregation」と呼ぶ高速通信モードのフレーム規定を一部改良して応答パケットの無駄な部分を減らす仕様,に大別できる。
11nでは,無線LANで一般的な20MHz幅のチャネルのほかに,40MHz幅のチャネルも利用可能になる見通しである。ただし,異なる周波数幅の通信チャネルが共存することは従来の無線LANでは想定していなかった。従来のアクセス制御方式のままでは,20MHz幅と40MHz幅の通信チャネルが競合した場合に,40MHz幅のチャネルに通信の機会がなかなか与えられなくなる。さらには,20MHz幅のチャネルも有効に利用できず,全体のスループットが大幅に低下する恐れもあるという。
東芝は,20MHz幅のチャネルと競合する場合でも確実に40MHz幅のチャネルを確保するために,40MHzチャネルを予約,あるいは開放するための制御フレームを導入した。計算機によるシミュレーションでは従来方式より4割以上も実効データ伝送速度が向上したという。同社は,この20MHz/40MHzの共存仕様をアクセスポイントを利用する「Infrastructureモード」と端末間だけで接続する「Adhocモード」の両方で定義した。このうちアクセスポイントを利用した場合の仕様はTGn Syncの草案に採用済み,という。
11nの仕様は,現在TGn Syncの草案だけが当面の候補となっている。仮にTGn Syncの草案がそのまま採用されれば,MAC層の仕様の一部は,この東芝案が使われることになる。
40MHz幅のチャネルは「オプション」に
ただし,11nで40MHz幅のチャネルを使う仕様は「オプション」になる可能性が高い。TGn Syncは従来,40MHz幅のチャネルを必須仕様とすることを主張していた。ところが,同グループの草案だけが生き残った2005年3月17日の投票で,TGn Syncはこの主張を取り下げた。TGn Syncに対抗する業界団体「WWiSE(World-Wide Spectrum Efficiency)」は40MHz幅のチャネルをオプションにすることを主張していた。投票数の75%を獲得するために,TGn Syncが仕様をWWiSEの草案に近づけたのである。両団体は,今後草案を統合する方向で話し合うことを明らかにしている。 |