NECは,気温や光ファイバの長さといった通信環境が変化しても性能が劣化しない量子暗号通信システムを開発した。大阪大学で開催された「電子情報通信学会(信学会)2005年総合大会」(3月21日~24日)で発表した。同社と情報通信研究機構が2004年9月に発表した量子暗号システムを,より実践的な環境で使えるようにしたものである。NECは今後,信頼性などのテストをした後,製品化する予定という。ただし,価格や時期は明らかにしなかった。
発表したのは「通信距離20kmで300kビット/秒の鍵生成速度」(NEC)を持つ量子暗号システム。通信距離や鍵生成速度といった性能は,2004年9月に発表した「通信距離40kmで100kビット/秒の鍵生成速度の量子暗号システム」と同等である。鍵生成速度が3倍高速であるのは,1/2の距離で測定したためである。
今回新しく開発したのは,光子検出器を小型化すると同時に,気温の変化や,光ファイバの伸縮に適応する機能をシステムに作り込んだ部分(図1)。具体的には,(1)「量子光ブロック(Q-opt)」と呼ぶ,信号の送受信のタイミングを制御してファイバ内での散乱による雑音の影響を受けないようにする送受信回路,(2)受信側のクロックを送信側から高精度に提供する技術,(3)強力な冷却器と一体となった小型の光子受信器——を開発した。
(1)の送受信のタイミング制御技術は「バースト・モード」とも呼ぶ。任意のタイミングで信号を受け取れるため,温度変化による光ファイバの伸縮対策にもなるという。「20kmの光ファイバは,+10℃の温度上昇で約3m伸びる」(NEC)。
(2)は,クロック再生技術の一種である。単一光子を利用する量子暗号通信では,光のパワーが非常に小さいため,受信信号からクロックを再生できない。このため,クロック情報を量子信号とは異なる波長を使って受信側に同時送信する。ただし,波長が異なると,伝送路中で受信側に到達する時間にズレが起こる。今回,NECはこのズレを自動的に補償する回路を開発した。「(通常の光ファイバで)クロック信号を量子信号との波長差20nmで送ると,到達時間は距離10kmで3.4nsずれる」(同社)という。 |