住民基本台帳ネットワークシステムは憲法が保障する人格権やプライバシーを侵害するとして、福岡県内の住民24人が国や県などに住基ネットからの離脱や1人当たり22万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が14日、福岡地裁であった。一志泰滋裁判長は「公共の福祉のために必要なら人格権は制限を受けるべきで、住民サービス向上や行政事務効率化を目的とした住基ネットの必要性は認められる」として原告の請求を棄却した。
住基ネット差し止め訴訟は全国13地裁に提訴され、福岡地裁判決は3件目。今年5月、金沢地裁は「プライバシー権を保障した憲法に違反する」として住基ネットからの離脱を認めたが、名古屋地裁は請求を棄却し、司法判断が分かれていた。
住基ネットは、各住民に11ケタの住民票コードを付け、氏名、住所、生年月日、性別などの個人情報を自治体のコンピューターで管理する。原告側は、こうした管理は、国家から管理されない人格権を保障した憲法に違反すると指摘。さらに、安全対策が不十分なまま、個人情報を国の行政機関や全国の自治体に提供する住基ネットはプライバシーの侵害に当たると主張していた。
これに対し、国や県側は住民票コードは本人確認のための番号に過ぎず、個人の人格的価値とは無関係と主張。住基ネットは電子政府・電子自治体の実現という正当な行政目的のために実施され、不正アクセスを遮断するなどの対策を講じていると反論していた。【木下武】
▽総務省自治行政局市町村課の話 判決の詳細についてはまだ承知していないが、住民基本台帳ネットワークシステムの適法性、有効性について国の主張の正当性が認められたものと理解している。
<住民基本台帳ネットワークシステム>
99年の住民基本台帳法改正を経て02年8月から稼働した。パスポート申請時に住民票提出が不要になるなど、行政事務の効率化が目的とされているが、行政機関に大量に蓄積された個人情報が流出・悪用される危険性が指摘されている。現在は、福島県矢祭町、東京都杉並区、国立市が「住民の情報が守れない」として参加しておらず、横浜市は住基ネットへの登録を住民が自由に選べるようにする措置を取っている。杉並区は横浜市と同様の選択制を認めるよう求めて昨年8月、東京地裁に提訴した。