ディーゼル自動車の排ガスを妊娠中のマウスに吸わせると、生まれた子供の小脳にある神経細胞「プルキンエ細胞」が消失して少なくなることが、栃木臨床病理研究所と東京理科大のグループによる研究で分かった。自閉症では小脳にプルキンエ細胞の減少が見られるとの報告もある。ディーゼル排ガスが自閉症の発症につながる可能性を示す初めての研究として注目を集めそうだ。16日にカナダのモントリオールで開かれる国際小児神経学会で発表する。
研究グループは、妊娠中のマウスに、大都市の重汚染地域の2倍の濃度に相当する1立方メートル当たり0.3ミリグラムの濃度のディーゼル排ガスを、1日12時間、約3週間浴びせた後に生まれた子マウスと、きれいな空気の下で生まれた子マウスの小脳をそれぞれ20匹ずつ調べた。
その結果、細胞を自ら殺す「アポトーシス」と呼ばれる状態になったプルキンエ細胞の割合は、ディーゼル排ガスを浴びた親マウスから生まれた子マウスが57.5%だったのに対し、きれいな空気の下で生まれた子マウスは2.4%だった。また、雄は雌に比べ、この割合が高かった。人間の自閉症発症率は男性が女性より高い傾向がある。
さらに、プルキンエ細胞の数も、排ガスを浴びたマウスから生まれた子マウスに比べ、きれいな空気下で生まれた子マウスは約1.7倍と多かった。
菅又昌雄・栃木臨床病理研究所長は「プルキンエ細胞の消失などは、精神神経疾患につながる可能性がある。ヒトはマウスに比べ胎盤にある“フィルター”の数が少ないため、ディーゼル排ガスの影響を受けやすいと考えられる。現在、防御方法を研究中だ」と話している。【河内敏康】
▽橋本俊顕・鳴門教育大教授(小児神経学)の話 最近約10年間で先進国では自閉症が増えているとみられており、海外の研究報告では生まれる前の要因が強く疑われている。その研究報告と今回の研究は一致しており、候補の一つを特定できた点で高く評価できる。今後は、ディーゼル排ガスで動物に自閉症の行動特徴が起こるのか調べる必要がある。
<自閉症>
言葉の発達の遅れや対人関係を築きにくいなどの特徴がある一方、特定の分野で大変優れた能力を発揮する人がいる。脳の機能障害があるとされるが、はっきりした原因は分かっていない。典型的な自閉症は日本に約36万人、広汎性発達障害なども含めると約120万人いると推定されている。
2006年6月4日 3時00分