2016年の国内五輪候補地に、東京都と福岡市が正式に名乗りをあげた。日本オリンピック委員会に提出した計画書によると、どちらも競技場を集中させたコンパクト五輪を目指している▲財政上の理由だとしても、日本の社会が成熟した証拠だろう。42年前の東京五輪は「大きいことはいいことだ」という時代精神のまっただ中だった。再来年の北京五輪も国威発揚型になりそうだ。だが、「追いつき追い越せ」という騒がしさは、もう日本にはそぐわない▲マンモスの牙がどんどん伸び続けたように、進化には一定の方向があるという学説を定向進化説という。遺伝学では否定されているが、社会現象では珍しいことではない。五輪の大会規模も「より大きく」に向かって定向進化してきた▲これまでの常識なら、自治体の巨人である東京都に挑戦しても福岡市に勝ち目はないだろう。だが、コンパクト化の競争では発想の転換が勝負を決める。東京都は「都市の実力」を看板にした。発想の根底に、まだ「大きいことはいいことだ」が染みついているように見える▲福岡市は人口150万規模の都市でも五輪はできるという新しいモデルを作るのだという。もしそれが実現できたら新興国にも五輪開催のチャンスが生まれる。福岡市の計画のカギは「クラスター(集積地)」。クラスターとはブドウの房。都市計画では、関連する施設をブドウのように集積することをいう▲どちらに軍配が上がるか、大切なのは熱意だろう。九州の7県は福岡市の応援のため1日、東京・渋谷の代々木公園でコンサートを開いた。大規模な催しではないが、九州全体が結束するのは珍しいという。東京都は、都民の期待感を盛り上げるのが課題。スタートは出遅れた。
毎日新聞 2006年7月2日 0時11分