公共工事の資材で全国一律のキックバックが、初めて判明した。橋梁(きょうりょう)建設に使用するピアノ線(PC鋼線)取引。利幅が大きく、国民が長期間、不必要に高い基礎資材を買わされ、業界内で利益を分け合ってきた疑いが浮上し、国土交通省も調査に乗り出した。公共工事の闇が、また一つ明るみに出た。【武田良敬】
一般の商慣習でも「事後値引き」「販売奨励金」といったものはあるが、今回の取引は業界内だけの秘密事項として繰り返されてきた。しかもPC鋼線は、道路資材の中でも「世界有数の高値水準」といわれる。財団法人「建設物価調査会」などが定期調査し、公共工事入札の際の積算基準となる価格は、標準の直径12.7ミリ裸線でキロ229円(今年6月)。一方、関係者によると、日本工業規格(JIS)を取得した中国製品の現地流通価格はキロ約90円に過ぎない。米国でも150円前後という。
国内大手の住友電工は、米国法人も鋼線を米国の公共工事に納入しているが「日本より2~3割安い卸価格」という。同社は日米の価格差について「日本は運賃が高いうえ技術保証料も乗せているため」と説明する。
「キックバックは40年ほど前から。利益の二重取りで、いつまで続くのかと思っていた」と、ある業界ОBは明かす。複数の関係者によると、PC鋼線を使う工法はフランスから導入され、50年代から橋梁で実用化した。メーカーも寡占状態で、まもなく施工業者へのキックバックがシステム化したという。
99~03年度、旧日本道路公団へのPC鋼線納入シェアが6割を占めた定着具業者「アンダーソンテクノロジー」(東京都港区)は、各メーカーと「割り戻し」の覚書を締結し、キックバックを受けていた。工事後に「請求書」をメーカー側に送り、1~2カ月後に仕入れ価格の約1割に当たるキロ22円を振り込み送金で受け取ってきたという。同社は「業界の慣行を継承した」と話すばかりだ。
毎日新聞 2006年7月4日 3時00分