ひと昔前まで、中国の庶民が交わすあいさつに「メシは食べたか」というのがあった。今でもお年寄り同士の会話で時たま耳にするが、その機会はめっきり減った。
新中国成立後も為政者の誤りで数千万もの餓死者を出したこの国で、「食」は特別な意味を持つ。日に三度三度、食べられるかどうか。食へのどん欲さと心配が、胃袋が満たされたかを問う確認作業を生んだ。
世界食糧計画(WFP)が今月20日発表した05年食糧援助報告によると、中国が援助供給量で日本を抜き世界第3位になった。WFPから26年間受けた食糧援助も昨年、終わった。中国は食糧問題を基本的に解決した。
反発する一方で、手本でもある日本を抜くのは中国人の自尊心をくすぐる。とはいえ、国内にまだ2600万もの貧困人口を抱える中国の食糧支援は人道的精神に基づくものだけだろうか。
昨年の増加分のほとんどが北朝鮮向けで、他はアフリカなどの貧国が対象だ。駄々っ子のような隣国のほか、豊かな地下資源を有する国もある。国連改革で中国の立場に賛成する国々の輪を広げていく。
直接支援だけでなく、国際機関を経由する援助なら国際協調もアピールできる。送った穀物はアメとなり、国家戦略に組み込まれる。そして戦略の先には日本と競う地域の盟主の座がある。
中国の横町から消えつつある「メシは食べたか」は今日、海外への問いかけになった。食の重さを知るからこそ、それが武器になると中国は熟知する。「飽食」と言われて久しい日本にはさて、どんな戦略があるのだろう。(中国総局)
毎日新聞 2006年7月25日