早稲田大理工学部の松本和子教授が発表した論文の不正疑惑について調査していた日本分析化学会(小泉英明会長)は29日、「データの取り扱いに厳密さが欠けていた」とする中間報告を発表した。しかし、教授の研究テーマそのものに問題はないとして、教授に昨年授与した学会賞の返上や学会除名処分は現時点で検討していないという。
問題の論文は中国人研究者と共同で執筆し、米化学会誌「アナリティカルケミストリー(分析化学)」01年4月15日号に掲載された。テルビウムという金属の化合物を、たんぱく質などの分子に付け、標識として光らせて分析する手法に関する内容だった。その中で、「化合物に吸収された光エネルギー(光子)が100%蛍光として放出される」ことを示す記述が「ねつ造ではないか」と指摘されていた。
学会は専門家11人で調査委員会をつくり、同論文を含む24本を詳しく調べた。その結果、▽実験記録が実在し「ねつ造」ではない▽テルビウム化合物は標識剤として優れた性能を持ち、そこに期待して研究することは適正だった--とした。
一方、「100%」の記述については、実験手法やデータの検討が不十分で科学的に信頼のおける値ではないと指摘し、「この値を論文に公表したことは慎重さを欠いた」と結論づけた。
小泉会長は「著者は2人とも、この解析の専門家ではなかった。ただ自分の論文に過ちが見つかればすぐに訂正するのが普通だ」と話した。
論文不正疑惑については早大も調査中で、早ければ9月下旬に結果をまとめる予定。同学会はこの結果も参考にして最終報告をまとめるという。【元村有希子】
毎日新聞 2006年7月29日