大地震の際、大きな揺れが来る前に予測震度を伝えることを目指す気象庁の「緊急地震速報」システムの運用が1日始まった。当面の提供先は鉄道や建設会社など40機関に限られるが、将来はテレビなどを通じて一般にも警告を流す予定だ。
◇仕組み
システムは、カタカタという最初の小さな揺れを伝えるP波(秒速5~7キロ)と、大きな揺れのS波(同3~4キロ)の速度差を利用する。全国203カ所にある新型地震計で、先に届くP波を基に震度を予測する。
ただ、震源が陸地で浅い(深さ10キロ程度)場合、震源から半径約25キロ以内では速報が間に合わない見通しだ。東海地震が起きて最も状況が良ければ、東京では40秒前に警告できる見込みだが、静岡市では10秒前と、揺れが強い地点ほど時間的余裕がないという欠点もある。
◇企業の対応 小田急電鉄(東京都新宿区)は、沿線で震度5弱以上の地震が見込まれれば、全電車に緊急停止を命じる。時速100キロで走行中なら、停止まで約30秒。東海地震では、神奈川県小田原市内には10~20秒で大きな揺れが到達する計算だが、同社は「減速できれば被害は減る」と期待する。混乱を避けるため、乗客向けの放送はしないという。
富士警備保障(同新宿区)は、本社ビルの出入り口が自動的に開き、電気やガスをストップ、館内放送で避難を呼びかける仕組みを導入した。警備員の派遣先3カ所にも伝達し、警備員が可能な対応を取る。派遣先には同社ビルと同様のシステムの活用を呼びかけていくという。
◇一般向けは
家庭用速報受信装置も開発され、電子情報技術産業協会(同千代田区)は、約500軒の住宅などで試験運用している。しかし、家庭用装置や、テレビやラジオ、大規模施設の館内放送を通じた一般向けの情報提供は早くても来春以降だ。
気象庁は今後、広報活動を進め、モデル実験を進めて課題を探る。同庁地震火山部は「広く知られていないまま発表すると、パニックを起こす恐れがある」と説明する。【五味香織】
毎日新聞 2006年8月1日