「家畜の遺伝資源の保護に関する検討会」が報告をまとめ、農水省と畜産業界は和牛の遺伝子情報の保護とブランド確立に乗り出す。国際競争力をあまり意識してこなかった日本の農業にも、知的財産権の発想が浸透し始めた。
1997年から98年にかけて、和牛の生体128頭、精液1万3000本が米国に輸出された。この遺伝資源が豪州に渡り、外国種との交雑種が生産されている。それらは「コウベビーフ」として国際的に流通し、牛肉または子牛として日本にも輸入されている。その意味では、和牛の遺伝資源はすでに海外に流出しており、今さら保護に乗り出しても遅い。
しかし、和牛の品種改良は今後も続き、海外で日本食の人気が高まるにつれて和牛の需要が拡大する可能性もある。その時に、米国産や豪州産のコウベビーフに市場を奪われることは面白くない。遅まきながらでも、多くの時間と労力をかけた品種改良の成果を守りに入るのは当然だろう。
日本の農政や農業は基本的に、輸入量を制限したり高関税によって国内農業を守るという意識が強かった。輸入を阻止することで日本の農業を守るという発想なので、国際競争力を高めるために品種改良した遺伝資源を守るという発想が生まれてこなかった。
まして、日本で品種改良された農産物が海外で生産され、日本に逆輸入されるなどという危機感は薄かった。また、日本で生産している農産物が海外で好評を得るという事態も想定していなかった。国内に閉じこもった産業であり続けたために、他の産業では当たり前とされる、知的財産権をいかに守るかという問題意識が生まれなかった。
しかし、日本で栽培している品種と同一の農産物が中国から輸入されるなど、農産物の輸入が拡大するにつれて、ようやく農業でも知的財産権を守る必要があると認識されるようになった。
植物については、先に種苗法が一部改正され、種苗登録した権利を侵した場合の罰金が、300万円から1億円に引き上げられた。今回、畜産物についても知的財産権を守る体制作りに取り組むことになった。
具体的には、和牛の肉質にかかわる遺伝子を特許登録したり、和牛の精子の管理を徹底する。和牛の肉質に関する遺伝子の研究は、すでにかなり進んでいて遺伝子特許を得る可能性は高いとされる。得られた遺伝子特許はプールして共用するが、特許権をいかに共用するかなど、仕組みについての工夫が必要だ。
また、国内で生まれた和牛のみを「和牛」と定義し、牛肉のトレーサビリティー制度を活用して輸入牛肉と区別する。このため、「和牛」の統一マークや新たな表示制度も検討される。
遺伝資源保護への取り組みは和牛のより深い理解につながり、世界市場における和牛の位置付けを認識することで、視野を世界に広げることにもなるはずだ。
毎日新聞 2006年8月4日