20日早朝、閑散としたバンコク市内で国軍部隊の戦車のわきを歩くたく鉢の僧侶=AP
【バンコク浦松丈二】タイのクーデターを首謀した国軍のソンティ陸軍司令官は20日午前9時(日本時間同11時)すぎから国民に向けてテレビで演説し、現憲法を停止、タイ全土に戒厳令を敷き、実権を掌握したと発表した。司令官ら国軍首脳はこれに先立ち同日未明、プミポン国王に謁見(えっけん)し、ソンティ司令官がタクシン首相に代わる暫定首相に就任したことを明らかにした。国軍首脳は暫定的な短期政権だと強調している。ニューヨーク滞在中のタクシン首相が出したソンティ司令官解任の指示に呼応する動きは国軍内になく、01年に発足したタクシン政権は事実上崩壊した。
ソンティ司令官は国軍最高司令官、海軍、空軍、警察トップを従えてテレビに出演した。クーデターを起こした理由についてソンティ司令官は「タクシン政権は国民を分裂させ、汚職をまん延させた。国の安全と経済運営に悪影響を与えかねない。(国軍と警察でつくる)民主改革評議会が実権を掌握し、正常化する必要があった」と説明した。一方で「我々は国王の下におり、自ら国を統治するつもりはない。できるだけ早く立憲君主制を回復し、主権を国民に戻す」と約束した。
バンコクでは国軍が19日夜から20日朝にかけ、首相府や国会議事堂、テレビ各局など主要施設前に、戦車や装甲車を配置し、首都機能を制圧した。市街地では暴動や衝突などは起きておらず、平穏を保っている。
国軍は20日未明、▽97年に施行された現憲法の停止▽上下両院の解散▽全閣僚の解任▽憲法裁判所の停止--を発表した。また、タクシン首相側近のチッチャイ副首相とタンマラク国防相を拘束したと明らかにし、首相が出した非常事態宣言を無効とした。秩序の早期回復のため、政府機関や銀行、市場を20日は休業とすると発表した。
プミポン国王と国軍首脳の謁見の内容は伝えられていないが、最近、国民から絶大な尊敬を集めるプミポン国王の側近からタクシン首相の強権体質に対する批判が高まっていた。国軍が国王周辺の意向をくみとり、首相外遊中を狙ってクーデターを実行したとみられる。
タイでは8月下旬にタクシン首相暗殺未遂事件が発覚し、軍幹部が相次いで逮捕されるなど軍事クーデターのうわさが流れていた。
◇ソンティ・ブンヤラガリン陸軍司令官(59)
タイ中部出身のイスラム教徒の軍人。陸軍入隊後、軍事部門のエリートコースを進み、昨年10月、4管区司令部、2軍団司令部の計19万人を束ねる陸軍司令官に就任。最近になって南部のテロ対策を巡り、対話路線を優先する同司令官と、力による制圧を掲げるタクシン首相との意見の相違が浮上していた。プミポン国王側近で元首相のプレム枢密院(国王の諮問機関)議長の信頼が厚く、タクシン首相との対立軸を鮮明にしていた同議長の後ろ盾を得ている。
◇ソンティ司令官のテレビ演説の要旨は次の通り。
一、タクシン首相がもたらした国民間の対立を終わらせる必要があった
一、(軍と警察で作る)民主改革評議会は国家統合のため今後数カ月間は政権を掌握する必要がある
一、評議会は可能な限り早く立憲君主制に戻す
一、国民は平静を取り戻し、支持してほしい