交通事故で脳などに重い後遺症を負い、自宅で介護を受ける被害者をショートステイ(短期入院)させるため、国土交通省が01年度から全国で整備を進めている「短期入院協力病院」で、同省から指定を受けた32施設のうち、半数以上の18施設で被害者の受け入れ実績が全くないことが毎日新聞の調べで分かった。制度の周知不足が原因とみられ、同省や指定病院などは被害者家族への情報提供の徹底を迫られそうだ。
現在の診療報酬制度では、交通事故で重い障害を負っても、一定期間の治療で症状に改善がなければ医療機関から退院を余儀なくされ、家族が自宅で介護をするケースが多い。後遺症が重い場合は24時間の介護を強いられるため、家族が「心と体を少しでも休める支援策を」と要望し、創設された。国交省は家族の負担軽減策として交通事故被害者対策の柱に位置づけ、1都道府県に1施設設けることを目標としてきた。
短期入院の受け入れ実績を回答したのは32施設中27施設で、このうち18施設は一人も受け入れていなかった。特に今年4月に指定された14施設では12施設で受け入れがゼロだった。一方、最も多かったのは久留米リハビリテーション病院(福岡県久留米市)の45人。それ以外で2けたの実績があった3施設は、いずれも国交省所管の独立行政法人「自動車事故対策機構」(東京都千代田区)が運営する重度障害者のための高度医療施設「療護センター」だった。
施設が利用されていない理由として、複数の病院が「制度が知られていない」(東京都・山田記念病院、新潟県・桑名病院)ことを挙げた。協力病院については、自動車事故対策機構が制度を説明する広報誌を事故の被害者に送っているが、実効性が上がっていないことが裏づけられた。
同省自動車交通局保障課の藤井直樹課長は「事故の被害者や家族にもっと制度を知ってもらえるよう周知する方法を再考したい」と話している。【種市房子】
◇短期入院協力病院 交通事故で常時介護を要する重度障害を負い、在宅介護を受けている被害者の短期入院の受け入れ先となる病院。1回の入院は14日以内で年間30日まで。受け入れ対象の被害者は推定約3200人。国交省に指定されると、介護用入浴施設やベッドの整備費用として1施設最大450万円の補助金が支出され、今年度も1億800万円分の予算が組まれている。短期入院する被害者にも自賠責保険制度から1日1万円が補助される。
毎日新聞 2006年9月25日