「小泉を支持している層の大多数は、新聞の政治面を読まない層ではないだろうか」(首相が衆院議員に初当選して以来、秘書を務める飯島勲・首相政務秘書官)
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世の中どんな役職に就いても前任者と比較されるものだ。得する人も損する人もいるが、小泉純一郎首相は、密室から生まれた前任の森喜朗前首相のおかげで随分と得をしたように思われる。
森政権末期の01年2月の本社全国世論調査。森内閣を「支持する」が過去最低と並ぶ9%に沈み、反対に「支持しない」はワースト記録の75%に達した。
01年4月、小泉首相が登場するとオセロゲームのような大逆転現象が起きる。就任直後の世論調査は「支持する」が実に85%。過去最高だった細川内閣の75%を10ポイントも上回った。森内閣時代に吹き荒れた自民党への逆風を「自民党をぶっ壊す」のひと声で追い風に変えてしまった印象だ。
翌5月の支持率87%がピークで、その後、田中真紀子外相の更迭で急落するなど変動はあったが、最低でも37%(04年12月、05年7月)。歴代首相がしっとするほど高い支持を受けてきた。
首相の顔を大写しにしたポスターが飛ぶように売れ、キャラクターグッズが次々と作られた。「庶民宰相」といわれた田中角栄元首相も人気は高かったが、農村部に集中している感はあった。その点、「純ちゃん」人気は全国区。日本の総理大臣がこれほど国民的な人気を集めたのは初めてだろう。
難しい政治の話は分からなくても、小泉首相が発する簡潔でストレートな物言いは、誰の耳にも抵抗なく入ってきた。その典型は就任1カ月後の大相撲夏場所千秋楽、復活優勝した貴乃花にアドリブで「感動した」と声を張り上げたシーンだ。国民の大多数が思い、感じていることをストレートに表現し、かっさいを浴びた。
小泉首相が高い支持率を維持してきた背景に、巧みなテレビ利用があったと思われる。官邸での午後の定例会見にテレビカメラが参入し、首相の肉声が直接、茶の間に届くようになった。
プロ野球や五輪での日本選手の活躍もしばしば取り上げられた。そのつど「素晴らしいですね」「頑張ってほしいですね」といった当たり障りのない首相談話が繰り返しワイドショーなどで放映される。談話の中身はこの際、二の次である。「首相もわれわれと同じようにスポーツに一喜一憂している」という親近感が国民の間には植え付けられた。「劇場型政治」と呼ばれるゆえんだ。
支持率の高さは、党内基盤の弱さを覆い隠しただけではない。かえってフリーハンドの行動力を与え、長期政権を可能にした。
さて、小泉首相と比較される宿命の次期政権である。果たして得をするのか、損をするのか。
毎日新聞 2006年9月1日