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記者の目:五輪招致=石井朗生(運動部)

作者:石井朗生  来源:mainichi-msn   更新:2006-9-1 8:12:38  点击:  切换到繁體中文

 東京都が2016年夏季五輪の国内立候補都市争いで福岡市を破り、国際招致合戦に挑むことが決まった。今後は09年10月の開催都市決定に向けて、米国、スペインなど他国の立候補都市と争う。東京都の開催理念の希薄さや、国際オリンピック委員会(IOC)基準に沿っていない競技施設の配置や交通輸送などが懸念されているが、私はその前に、五輪招致を先導する立場にある日本オリンピック委員会(JOC)から「スポーツ界としてなぜ今、どんな五輪を開催したいのか」が伝わってこないことに危惧(きぐ)を覚えている。

 30日の選定委員会の後、竹田恒和JOC会長に改めて、なぜ五輪を招致したいのかを尋ねた。竹田会長は「JOCの使命はオリンピックムーブメント(五輪を中心にした諸活動)の推進と、国際競技力の向上。この二つを同時に、最大に示せるのは五輪開催に尽きる」と語気を強めた。考え方が間違っているとは思わないが、「五輪をやりたい」という思い以上のものが感じられない。別のJOC幹部からは「JOCとして理念は、東京都の理念ともすり合わせながら今後考えればいい」という言葉も聞いた。しかしそれは、自らには具体的な理念がないと言っているのと一緒だ。

 五輪を日本で開けば、JOCをはじめスポーツ界は競技施設の充実、政府等からの補助による強化費の増額、開催国枠による出場権の獲得など多くの恩恵を得る。しかし石原慎太郎・東京都知事が「(立候補や開催が)決まればカネを出して造るのは行政。負けた時にたたかれるのも行政」と再三言うように、開催都市や国は多額の財政や要員などの負担を強いられ、経済や市民生活も大きく影響を受ける。大会中は数万人の市民ボランティアの協力も必要になる。

 JOCはさまざまなものを得る代わりに、自らは何を提供できるのか。竹田会長は選定委員会の冒頭あいさつで「64年東京五輪では日本人として自信と誇りを受け取った。半世紀たった今、21世紀を担う子供たちに同じ経験をしてもらいたい」と語った。それだけでなく、例えば選手強化と市民スポーツ振興を結びつける提案をしたり、五輪を契機にした都市の発展の中で「スポーツ界はどんな役割を果たすのか」などを示すべきだ。そうでなければ、どの都市も財政事情が苦しく、福祉や教育など取り組むべき課題を数多く抱える状況下で、スポーツに税金を費やす理由は見つからないし、市民の理解や賛同も得られない。

 JOCとしての理念の欠如は、東京都との争いで敗れた福岡市への対応にも感じられた。福岡市は、少なからぬ人材と経費と時間を投じて、IOCの基準を綿密に研究した上で、東京都よりも数段詳細な計画を提示した。地元財界や市民団体などによる推進活動も熱心だった。30日の選定委員会後、JOCの竹田会長は「福岡市の熱意はひしひしと伝わった。JOCはそれをしっかり受け止めて、これまで以上にスポーツ振興に努めたい」と敬意を表した。

 しかし、JOCとして福岡市の取り組みにどう報いるのかは示されていない。JOC理事の中からは「福岡市が数億円を使ったとしても都市の宣伝費と思えば安い」「福岡市の熱心さのおかげで五輪運動が盛り上がった」という無責任な声も聞こえた。こんな声を福岡市民が聞けばどう思うだろうか。

 損得の問題ではない。福岡市や市民が懸命に五輪招致に取り組んだ意義を見いだせず、失望感だけが残るなら、この1年の招致活動は「無」に帰して何も残らない。それでは今後、JOCやスポーツ界に対して背中を向けられてしまう。

 東京都は日本の中でこそ突出した財政力や国際的知名度を誇るが、世界の中では「数ある大都市の一つ」でしかない。他国の有力都市との招致合戦で勝てる保証など全くない。もし09年のIOC総会での投票で敗れたら、その時もJOCは「東京都の熱意に感謝する」「五輪運動にプラスになった」と言って終われるのか。石原知事は16年五輪が招致できなければ20年五輪への再挑戦もすると言うが、再びカネと人と時間を注ぐことに都民の理解は得られるのか。

 五輪の招致活動や開催はせいぜい十数年で終わるかもしれないが、日本のスポーツはそれで終わるわけではない。その中心的な立場を自負するJOCが今回の五輪招致を機に、長期的な視野に立った明確な理念を示さなければ、スポーツはそのうち、都市の再開発などに利用されるだけのものに成り下がってしまいかねない。

毎日新聞 2006年9月1日


 

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