日本は昨年、予想より1年早く人口減少時代に突入した。政府にとっては少子高齢化社会に対応した年金など社会保障政策とともに、不足する労働力を補うための長期的な外国人政策の策定が急務である。
政府の経済財政諮問会議は6月にまとめた「骨太の方針」で、外国人労働者について、専門技術者など「高度人材」の受け入れ促進に加え、単純労働者の受け入れも「国民生活に与える影響を勘案し総合的な観点から検討する」よう提言した。
「高度人材は受け入れるが、単純労働者は受け入れない」との政府の基本方針から一歩踏み出した内容だ。単純労働者の必要性が高まり、現実にその数が増えてきたので、もはや見て見ぬふりができなくなったということか。
外国人の単純労働者とは、東南アジアからの研修・技能実習生や「定住者」の在留資格を与えられたブラジル人などの日系人だ。彼らは自動車や電機メーカーの下請け工場などで労働に従事している。その数は家族や不法滞在者を含めれば、高度人材(19万人)の数倍にのぼるとみられる。日本の経済を下支えしているのだ。
外国人労働者が多く住む静岡県浜松市や愛知県豊田市などは「外国人集住都市会議」を組織し、外国人の社会保障や子供の教育などの体制整備を政府に求めている。異文化の外国人が増えれば社会に摩擦が生まれ、犯罪が増える。集住都市会議の18市町がブラジルとの犯罪人引き渡し条約の締結を政府に求めたのも当然だ。
安価な労働力を産業界が求め、自民党の一部がそれを後押しする。国内労働者の雇用確保の立場から労組や厚生労働省は外国人労働者の受け入れ拡大に難色を示す。治安の悪化を懸念する国民の一部には受け入れに強いアレルギーがある。政治的に極めてデリケートな問題を含んでいる。問題意識を持ち積極的にかかわろうとする政治家は極めて少ない。
それでも、総務省が「多文化共生プログラム」を策定するなど政府も重い腰を上げ始めた。小泉内閣時代に法務省の河野太郎副大臣らのプロジェクトチームが研修・技能実習制度や日系人の受け入れ見直しなど抜本策を提言したが、傾聴に値する問題提起だ。
グローバル化の進展は、有能な外国人の獲得競争を生んでいる。一方で移民政策の失敗による社会的混乱が深刻なことを、欧米の例が如実に示している。
フィリピンとの経済連携協定(EPA)の締結により、フィリピン人の看護師と介護福祉士を2年間で計1000人受け入れることになった。日本の国家資格の取得など厳しい条件を付けての受け入れだが、「窓口開放」の今後の行方が注目される。
安倍晋三首相が言う経済活性化のための「オープンな姿勢」とは、外国人労働者の受け入れも含むのだろう。だとすると、「美しい国」づくりのために、彼らとの共生社会を実現しなければならない。
毎日新聞 2006年10月22日