東京都町田市の都立高校1年、古山優亜(こやまゆうあ)さん(当時15歳)が元同級生の少年(17)に殺害された事件は今月11日で発覚から1年が過ぎた。それを機に母君子さん(40)が毎日新聞の取材に応じた。少年はその後、東京家裁八王子支部から検察官送致され、刑事裁判での審理が進んでいる。「少年審判では情報が入らず、蚊帳の外だった。(司法手続きの)すべてに参加したい」と君子さんは話し、少年については「娘を帰してという一言しかない」と胸のうちを語った。【苅田伸宏】
娘の遺体を発見したのは君子さんだった。深夜のトラック運転手の仕事を終えて早朝に帰宅し、ドアを開けると、壁や床に飛び散った大量の血痕が目に飛び込んだ。娘は居間であおむけに倒れていた。「(血で)真っ赤だった。名前をひたすら叫んで……。でも動かなかった」
娘の最期が頭から離れず、恐怖で夜、外出できなくなった。仕事は辞めざるを得ず、貯金も底をついた。それでも「元気になったね」と時折、知人に声を掛けられる。
「衝撃で感覚がまひしてしまい、外見上は落ち着いて見えた。悲しみや怒りを表に出さなければまずい、と心配だった」と代理人の番敦子弁護士は話す。精神科を受診し、犯罪被害者の自助グループに通った。少しずつ感情表現ができるようになってきたのは最近だ。
今年2月、君子さんは少年審判で意見陳述し、「(犯行当時の)16歳なら分別がつく。法律で守られているのは納得いかない」と成人と同じ刑事裁判を求めた。東京家裁八王子支部は翌3月、少年に検察官送致の決定を下す。「家裁は遺族感情を決定理由にプラスしてくれた」。だが、審判そのものは遺族にも非公開。00年の少年法改正で、意見陳述とともに審判決定の通知は始まったが、要旨しか提供されない。
胸に残った疑問を意見書にまとめ今夏、法務大臣に提出した。少年の名前や顔写真を成人と同様に公表し、遺族に審判傍聴を認めるなどの要望をつづった。
少年の裁判は5月に東京地裁八王子支部で初公判が開かれ、10月末で9回目を終えた。優亜さんの遺影を持って毎回通い、被害者の自助グループのメンバーも駆けつけ、励ましてくれる。
優亜さんは家では一度も少年のことを話題にしたことがなく、その姿を法廷で初めて見た。「自分がしたことを分かっているのか」。傍聴席から、その背中に厳しいまなざしを向け続ける。
■事件の経過 殺意あったと逆送
事件は昨年11月10日夕方、東京都町田市の古山君子さん方で発生。翌11日に帰宅した君子さんが長女優亜さんの遺体を発見した。元同級生の少年が殺人容疑で逮捕され、今年3月、東京家裁八王子支部が「強固な確定的殺意に基づく残忍な非行」と検察官送致(逆送)を決定。少年は殺人罪で起訴された。検察側冒頭陳述によると、少年は優亜さんに好意を伝えたが断られ、「自分に冷たい態度を取っている」と思い込み、理由を問いただそうと優亜さん宅に向かい、台所の包丁で刺したという。少年は殺意を否認している。
毎日新聞 2006年11月18日