アサヒビールは17日、米系投資ファンドのスティール・パートナーズから買収提案を受けているサッポロホールディングスに対し、資本提携などを実施して、スティールの買収工作に対抗する準備があるとの意向を明らかにした。サッポロは複数の金融機関から、アサヒのほか、キリンビールとの提携の提案も受けているが、アサヒとの提携に進む可能性が出てきた。
アサヒの荻田伍社長は同日、毎日新聞の取材に対し「現時点でサッポロ側との接触はない」としたうえで、「支援の要請があれば、もちろん検討したい」と発言。経営統合や資本提携によって、スティールの買収を阻止する友好的買収者(白馬の騎士=ホワイトナイト)になる可能性に初めて言及した。
また、ビール大手3社と比べて競争力が劣るといわれる現在のサッポロについても、「アサヒビールも苦しい時代を過ごしてきたが、サッポロは利益も出ているし、新しい価値ある提案をしていけば、まだまだやれる」と評価した。
サッポロは現在、昨年2月に導入した買収防衛策のルールに従い、スティールに対し、詳細な買収目的を示すよう求めている。一方で、金融機関からの提案を受け、アサヒとの資本提携▽キリンとの資本提携▽経営陣による自社買収(MBO)--を検討しているとみられている。
ただ、関係者によると、サッポロはアサヒとの提携に難色を示しており、キリンとの提携やMBOで非上場企業として再生を図る道も残っている。【三沢耕平】
◇限られた選択肢
米系投資ファンド、スティール・パートナーズの買収提案を受けているサッポロホールディングスに対し、アサヒビールが支援の意向を示したことで、サッポロの判断が一段と注目されることになった。これまで、アサヒとの提携に難色を示してきたサッポロは、限られた選択肢の中でぎりぎりの決断を迫られている。
サッポロとアサヒは1906年、エビスビールを製造販売していた「日本麦酒」とともに「大日本麦酒」を設立。分割後、サッポロは順調にシェアを拡大して成長したが、アサヒは振るわず、80年代に入ると「いつ倒産するか分からない状態」(荻田伍アサヒ社長)にまでシェアが低下した。
現在の両社の立場は完全に逆転しており、アサヒのビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の出荷量はサッポロの3倍以上。こうした経緯をふまえて、アサヒの関係者は「サッポロはかつて弱小メーカーだったアサヒに支援を求めることに強い抵抗感があるのでは」とみる。
とはいえ、サッポロに残された選択肢は限られている。アサヒ同様、サッポロが支援先として検討しているキリンは「投資の軸は飲料や食品部門であり、サッポロと提携する考えは全くない」(幹部)と消極姿勢を示している。
サッポロは、自社買収(MBO)の実施も検討している。株式市場から退場することで「究極の買収防衛策」とも言われ、近年は、すかいらーくやポッカコーポレーションなどの食品企業が実施している。MBOは企業の根幹となる事業構造を抜本的に見直す「リセットからのスタート」といわれるが、サッポロの場合は「中期経営計画にのっとって企業価値の向上を進めていくという方針は揺らがない」(斉藤慎二専務)との姿勢で、買収防衛のためだけに非上場企業となる考えは薄いとみられる。
サッポロは当初、自力での経営に強いこだわりをみせていた。しかし、16日には「支援の提案があれば具体的に考える」(持田佳行・取締役経営戦略部長)と態度を修正している。スティールの背後には、海外のビールメーカーがいるとの観測もあることから、サッポロが、アサヒとの提携に傾いていく可能性もある。【三沢耕平】