世界最大を誇る中国のスマートフォン(スマホ)市場に異変が起きている。米調査会社IDCによると、1~3月の中国のスマホ出荷台数は6年ぶりのマイナスに沈んだ。9割に達した普及率に加え、買い替え需要も一巡。大画面モデルが好調な米アップルがシェアを伸ばす一方、商品力に陰りが見える韓国サムスン電子が不振に陥るなど、飽和感漂う市場での生き残り競争が激しさを増している。
中国ではサムスンの人気衰退が著しい(北京市内の携帯販売店)
北京・東大街にある中国移動通信の販売店。試用コーナーでは「vivo」「OPPO」といった中国スマホが押し並び、「サムスン」は目立たないところに追いやられていた。営業担当者は声を潜める。「サムスン? 安く出せるけど、お薦めしないよ。持っていても自慢できないから」
IDCによると、1~3月の中国のスマホ出荷台数は前年同期比4.3%減の9880万台にとどまり、6年ぶりに市場が縮小した。右肩上がり成長に急ブレーキがかかった中国のスマホ市場で最も打撃を受けたのがサムスンだ。中国で1~3月の市場シェアは9.7%と1年前から半減した。
「やはり、生産調整か」。4月、大手電子部品メーカーの幹部は嘆息した。年初からサムスンが「ギャラクシー」シリーズなど主力モデルを大幅増産し、中国シェアを挽回する戦略に打って出た。「優先的に部品を回してくれ」との要請に多くの部品メーカーも応じたが、これが裏目に出た。
2014年に4億2千万台のスマホを出荷し、世界販売の3分の1を占める最大市場となった中国。サムスンは販売店への供給量を増やし、中国シェアの低下に歯止めをかける狙いだった。だがこうした積極策は今のところうまくいっていない。販売不振を受け、急激な在庫増に苦しんでいる。
ブランド力のあるアップルが大画面スマホで復権し、小米(シャオミ)など一部の中国勢も低価格スマホでサムスンの顧客を奪う。だが、単なる商品力の違いだけでは説明しきれない中国のスマホ市場の構造要因がある。
北京有数のハイテク製品市場「百脳匯」。スマホ売り場を7年間担当しているというベテラン販売員の李茗月さん(42)は「スマホの『買い替えブーム』が終わった。今年以降はもっと市場の伸びが鈍るはずだ」と危機感を隠さない。
李さんによると、中国でスマホが本格普及し始めたのは09年以降だ。サムスンやアップルの参入を機に、それまで従来型携帯を使っていた消費者が一斉にスマホに飛びついた。初めてのスマホを2~3年使った後、機能やデザインを求めて一気に買い替えに動いたのが12年以降の「買い替えブーム」だ。これが一巡し、消費者の考え方も大きく変わり始めたという。
上海市内に勤める男性会社員、夏聖基さん(32)は昨年3月に買った「iPhone5S」を当分使うつもりだ。友人とのチャットやモバイルゲームをするために頻繁に使うが「機能は今のスマホでも十分だ。なくしたり壊したりしない限り買い替えない」と話す。
米アップルは「大画面」で販売をてこ入れした(北京市内の携帯販売店)
今ではスマホは内陸部の農村や山岳地帯にも行き渡り、普及率は9割に達するとされる。スマホの性能も上がり、一通りのアプリケーションは使えるようになった。そうなると買い替え期間の長期化は避けられない。「よほど斬新な新型スマホが出ない限り、これまでのような高速成長は期待できない」と李さん。IDCの予測も15年は14年比横ばいの見通しだ。
今年1~3月にシェアを落とした中国レノボ・グループの楊元慶会長兼最高経営責任者(CEO)は21日、香港での決算記者会見で「中国市場では販売量を追い求めるのではなく、利益を出せるビジネスにしていく」と従来の低価格機重視からの方向転換の意向を示した。小米など好調といわれるメーカーでも「流通在庫がだぶつき始めた」といううわさが中国の部品業界で広がっている。構造変化の影響は中国のスマホ業界全体に及ぼうとしているようだ。
北京=阿部哲也、上海=小高航、広州=中村裕