「いまのフェスって楽しみ方が画一的。みんな右手振ってみたいな。もう少し自由なとこから始まるといいなって思う」と後藤正文
アジアン・カンフー・ジェネレーションのボーカル、ゴッチこと後藤正文が、新著「何度でもオールライトと歌え」を刊行した。何げない日常の一コマや東日本大震災後の葛藤を赤裸々につづった。
ネットに書きためた日記から、2011年3月9日以降を抜粋し、約50編を収録。スーパーで見かけた謎のお年寄り、犬のフンの始末といった珍妙な話の一方、原発に対する考えや、デモに参加する心境も包み隠さず書いた。ユーモアとシリアスさを軽妙な筆致に乗せて、市井の日常と、社会や国の課題が地続きであることを浮き彫りにする。
「震災後に襲ってきたのは、沈黙。“不謹慎”って言葉でまとめる世の中の圧もあって。この沈黙を破ってまで書きたいことや歌いたいことがあるっていうのは、とても大事なことだと思った。不謹慎でもバカでも、何を言われようが、書きたいことがあるなら書くってことなんだなって」
震災後、社会のあり方を考えるフリーペーパー「THE FUTURE TIMES」の発行を始め、脱原発デモにも足を運ぶように。政治と一線を引くミュージシャンが多い中、後藤は“政治的なこと”と“政治的じゃないこと”の間を自在に行き来してきた。
「政治的でありたいんじゃなくて、社会のことが気になる。社会が豊かじゃないと、音楽がなめらかに響かないから。ひっくり返せば、豊かな社会でこそいろんな人の表現が許される」
原発や憲法9条、安保法制では、自分なりの立ち位置を示しつつ、右か左か、白か黒か、二者択一ではない逡巡(しゅんじゅん)を文字にする。
「パキッと分けりゃ簡単だけど、俺たちがやるべきことは、世の中を簡単にすることじゃない。もっと細かく割っていって、それを許すことなんじゃないか」