諫早湾干拓事業(長崎県)の堤防排水門の開門を命じた確定判決をめぐり、国が開門を求める漁業者らに対し、開門を強制しないよう求めた訴訟の控訴審判決が30日、福岡高裁であった。西井和徒裁判長は国の請求を退けた一審・佐賀地裁判決を取り消し、「確定判決に基づく強制執行を許さない」とする判決を言い渡した。
高裁は、開門を履行しない国に科せられた1日90万円の間接強制金(罰金)の支払い停止も認めた。
国勝訴の判決が確定すれば、干拓事業と漁業被害の因果関係を認めて国に開門を命じた2010年の福岡高裁の確定判決が事実上「無力化」し、漁業者側は国に開門を迫る大きな足がかりを失う。漁業者側は上告する方針。
国が漁業者側に支払ってきた間接強制金は総額約12億円。間接強制は「罰金」にあたる強制金を支払わせることで判決などの履行を促す強制執行の一つ。国は支払いを免れるため、14年に強制執行しないよう求める請求異議の訴えを佐賀地裁に起こしたが、一審で敗訴し、控訴していた。
国側は控訴審で、共同漁業権は10年ごとに免許取得の必要があり、確定判決を勝ち取った漁業者の訴訟当時の漁業権は既に消滅したと主張。現在の漁業権とは法的に同じものではなく、開門請求権もなくなったと訴えた。「住民の激しい反対運動で開門に伴う工事ができない」「諫早湾周辺の漁獲量は増加傾向に転じている」とも主張した。
漁業者側は「現行法は漁業が継続する限り、漁業権も継続するよう制度設計されており、現在の漁業権と法的に同一」と指摘。「地元の反対で開門できないというのは口実で、国は当初から開門の意思がなかった」「一部の魚種を除き漁獲量の減少傾向に歯止めはかかっておらず、有明海の再生には開門しかない」と強調した。
高裁は今年3月の和解勧告で、開門せずに水産資源の回復をめざす国の基金案を軸に和解協議を進める方向性を示したが、漁業者側は応じず、和解協議は決裂した。(一條優太)