夜中に観客なしで行われる競輪「ミッドナイト競輪」が、今年から栃木県宇都宮市の宇都宮競輪場で始まっている。インターネットなどで配信される映像を見て車券を買う新しいスタイルの楽しみ方だ。開催経費が抑えられる分、収支改善が期待できる。他場でも同様の取り組みが増える中、今後の売り上げが注目される。
7月平日の夜9時すぎ、第1レース直前の宇都宮競輪場は、虫の鳴き声が響き渡るほど静かだった。走路だけが照明で浮かび上がり、真っ暗なスタンドには誰もいない。警備員の話では「入れないのか」とやってくる人が、まだ、たまにいるという。
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レースでは空気を切り裂くような車体の音、そしてゴール後の選手たちの激しい息づかいがはっきりと聞こえたが、当然、拍手も歓声もなく、淡々と次のレースへの準備が進む。選手たちは「ヤジがなく集中できる」「やはり寂しい」と感想が分かれるという。
競輪場にはいない「観客」の目は、カメラの向こう側にある。インターネットかCS放送でレースの模様を確認しながら、電話やインターネットで車券を買う。中継なのでファンは全国どこからでも宇都宮競輪を楽しむことができる。
宇都宮競輪は2015年度から他の競輪場を借りてミッドナイトを始めた。他場開催ではもちろん、施設を借りる費用が多くかかる。そこで昨年度、4億2千万円をかけて照明施設を整備。今年3月に計6日間、自場で開催した。
ミッドナイトの強みは、来場する観客がいないので警備や清掃などの費用が省ける点にある。さらに平日の夜で、ほかのレースが行われていなければ、全国から公営競技のファンを引きつけられる可能性がある。
6日間の売り上げは9億2800万円。払い戻しなどの開催経費を引くと6千万円の黒字だった。16年度の昼間に開催された同じランクのレースでは4700万円の赤字で、収支は1億700万円改善された。
深夜に及ぶ開催にあたっては、周辺民家などへの影響に配慮した。照明は場内を照らすように調整。残り1周を知らせる鐘は、昼間のものより響かない夜用を使い、たたき方も配慮。さらにマイクとスピーカーを配置して、走っている選手たちだけに聞こえるようにしている。今のところ、苦情などは来ていないという。
ミッドナイト開催は各地で増えつつあり、自場開催は6月に始まった三重・松阪競輪場で14場目。施設を借りて開催しているところを含めれば25場になる。開催時期が重なるとファンの取り合いにもつながるため、全国の会議で調整しているという。
宇都宮競輪は今年度、計24日のミッドナイト開催を予定している。1990年度には市の財政へ48億5千万円の貢献があったが、現在の市への繰り出しは2億円。これを維持するためにも、ミッドナイトは有効な手段のひとつとみている。(津布楽洋一)