音楽で果物や名産品を育てるアイデアが広まっている。経営難を脱する切り札としたり、「癒やし」を商品の価値に加えたり。ここちよい職場環境の効果を実感する人もいる。音響効果を疑問視する声もあるなかで、長年、真剣に取り組む生産者たちがいる。
鹿児島県大隅半島。山あいにブドウ畑が広がる「浜田農園」(錦江町)で7月、地元演奏家が奏でるモーツァルトの調べが響いた。ブドウ狩りの始まりを告げるセレモニーだった。
同園では25年ほど前から「音響栽培」を続ける。シーズン中、家族連れら約5千人が訪れる。
「賭けでした」
浜田隆介代表(48)は音響栽培を始めた当時を振り返る。農業大学校1年の時に父が急死。卒業後、実質的な経営者になったが、経営は素人。借金と台風の被害で、経営は苦しかった。
数年後、偶然手にした雑誌に、家畜に音楽を聴かせると肉がうまくなるという特集記事があった。これだと思った。ブドウ棚の上に6個の小型スピーカーを置き、朝8時ごろから日没までモーツァルトを流す。
「ブドウに耳があるのか」。始めて間もないころ、客から笑われた。「ひと手間、心を込めて育てたプラスイメージが加わる」として「クラシックブドウ」として売り出した。
音響栽培を始め、実が甘くなっ…