(みちのものがたり)100億で売れ、1分で消えた
2012年5月2日。格差是正を訴えるウォール街占拠の大規模デモがあったばかりのニューヨークで、歴史的な美術品競売が始まろうとしていた。
世界の2大オークション・サザビーズで、絵画の最高落札価格が更新されるかもしれない――。そんな情報にオークションルームは報道陣や観客でごった返した。
午後7時半、競売人によるスタート価格「4千万ドル」のかけ声で始まった作品こそが、エドバルド・ムンク作「叫び」だった。ノルウェーの大実業家オルセン家が所蔵していたものだ。当時の為替レートで約30億円に相当し、100万ドル刻みで入札のコールがかかる。最後は、顧客の意向を受けたサザビーズ社員同士の一騎打ちになった。
12分後。「1億700万ドル。誰か他には?」。手を挙げる人はいない。「ソールド!」。ためにためたハンマーが振り下ろされ、拍手と歓声に包まれた。当時の史上最高額約100億円(手数料込み)で落札された。
熱狂の渦中に身を置いていたサ…