滋賀県が2024年の国民体育大会(国体)にあわせて、次々に大型競技施設を整備しようとしている。総事業費は500億円を超え、国体簡素化の流れの中、最近では突出した高額だ。何が起きているのか。
琵琶湖を望み、国宝・彦根城(彦根市)に隣接する県立彦根総合運動場。その一角をショベルカーや大型トラックが行き交う。
これまであった競技場などを壊し、200億円かけてメインとサブの新たな陸上競技場などを4年後に完成させる。国体の主会場となる予定だ。
前回1981年の国体で主会場になった陸上競技場は、大津市に今もある。だが、井伊家の城下町だった彦根市などが「次は彦根」などと主張していた。
自民県議の一人は言う。「国体は50年に一度の『県威』を示す場。地域振興の絶好の機会でもあり、コストだけでは決められない」
県は2013年、開催地に内々定後、整備計画をつくり始めた。計画では38競技を約50カ所で開催する。
うち3カ所が新設だ。主会場のほか、25メートルと50メートルの計20レーンの可動床プール(草津市)を65億円、席が電動収納式の体育館(大津市)を90億円で整備する。
さらに3カ所を大規模改修。琵琶湖の漕艇(そうてい)場(大津市)の改修には10億円かける。これらの施設整備費は計379億円にのぼる。
市町への財政支援も欠かせない。今月2日、三日月大造知事と県内12市長らが集った会議では「施設改修が必要になったら支援を」「天然芝のサッカー場をあと1面確保するよう競技団体から求められている」などの要望が次々と上がった。
こうした市町への補助金19億円や開催経費81億円なども加え、国体の事業費総額は現時点で計511億円。県の一般会計の10分の1規模だ。うち国の負担は5億円にすぎない。
県は16年、過去10年分の国体事業費を調べた。3都県が非公表だったが、和歌山303億円(15年)、長崎185億円(14年)、岐阜136億円(12年)など残り7県の平均は約209億円。19年に国体を開催する茨城も、13~17年の国体事業費を調査したが、平均は約219億円だった。近年では、滋賀県の事業費は突出して高い。
既存施設は老朽化、不足する県財源
なぜか。一つは既存施設の老朽化だ。漕艇場や体育館は築40年以上。嘉田由紀子・前知事が大型事業を抑えたこともあり、別の自民県議は「施設は限界。建て替え必須だ」と言い切る。
競技団体側が選手育成や競技者人口を増やすために、より設備が充実した施設を求めることも一因だ。
「飛び込みができるプールをお願いします」。ある県職員は昨年、県水泳連盟の関係者に会う度に要望された。県水泳連盟によると県内の飛び込み競技者は30人ほど。だが、県体育協会(現・県スポーツ協会)は16年に「全ての種目が可能となる施設整備を」と要望書を出していた。
水泳会場に手を挙げた3市のうち、大津市、東近江市は県内競技人口が少ないことを理由に「飛び込みは県外開催」と提案したが、県は飛び込み対応型を掲げた草津市を選んだ。大津市の越直美市長は「飛び込み対応だと費用が年1億円も高くなるのに、県はなぜかこだわった」と語る。
国体の開催を踏まえた県の試算では、18年度~26年度の収支不足は839億円に達し、基金は21年度に底をつく恐れがある。県は行政改革や税収増による基金の積み増しでしのぐ考えだが、先行きは不透明だ。
知事選で「健康しが」を掲げて再選した三日月大造知事は取材に文書で回答し、「将来のスポーツ振興や健康づくりを図る上で真に必要な事業。最小の経費で最大の効果が得られるように創意工夫している」と施設整備の意義を強調。国体のあり方については「人口減が進む中、各県の財政状況が厳しさを増している。知事会等の場で議論をし、国等にも働きかける必要がある」との考えを示した。
■他県は節…