「鶴の恩返し」につながるか――。国の特別天然記念物タンチョウとの共生に、北海道東部の生息地、鶴居(つるい)村が頭を悩ませている。保護により絶滅の危機を乗り越えたが、問題も生じてきたからだ。何が起きているのか。
特集:どうぶつ新聞
釧路市の東隣、釧路湿原を抱える鶴居村は、その名の通りタンチョウの飛来地だ。人口約2500人の村には、環境省委託の大規模給餌(きゅうじ)場が2カ所あり、約600羽が越冬するとみられる。11月は本格的な積雪を前に、牛の飼料用トウモロコシ「デントコーン」の収穫が終わり、こぼれた実を求めて畑にタンチョウが集まってくる。
タンチョウは、乱獲や湿原の開発で減少し、一時は絶滅したと考えられていた。だが1924(大正13)年、鶴居村で十数羽を確認。50年代初頭に現在の釧路市阿寒町と同村で人工給餌に成功して徐々に増え、84年からは環境庁(当時)が給餌事業を始めた。NPO法人「タンチョウ保護研究グループ」の調査では、2017年度、釧路湿原を中心に1600羽が確認されている。
村では日本野鳥の会を中心に水辺の周辺のやぶをはらったり、全小中学校で環境省の越冬分布調査に参加したり、と保護活動に取り組む。観察所や案内板を設置するなど、観光にも力を入れてきた。
だが、数が増えるに従い、弊害も出てきた。民間団体が一昨年実施した調査では、村内の農家80戸のうち68戸で「農場敷地内に飛来する」と回答。目の前に舞い降りたタンチョウに驚いた牛が、鉄条網にぶつかるなどの被害も報告されている。
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