岡山県高梁市の備中松山城に、猫城主がいる。名は「さんじゅーろー」。7月の豪雨災害直後に迷い猫となり、城で保護された。城主に就任後、被災で激減した観光客はV字回復を果たしたが、人気の重圧か、またも失踪……。曲折を経て、16日に帰城する。さんじゅーろーのこれまでと、今後の予定を紹介する。
城に居着いて「城主」と呼ばれ
さんじゅーろーは推定3歳、茶トラの雄猫だ。名は、江戸末期、備中松山藩の藩士から新撰組の隊長になった谷三十郎にちなむ。
元は、市内に住む難波恵さん(40)宅の猫だった。今年7月1日に動物愛護団体の譲渡会で譲り受けた。
西日本豪雨で高梁市も浸水や長期断水など大きな被害を受けた。難波さんの家は無事だったが、猫は14日、ふとした隙にベランダから逃げてしまった。「外を見て切ないほど鳴いてました。外界が恋しかったのでしょう」。見つからず、娘は泣き、難波さんもひどく落ち込んだ。
1週間後、難波さん宅から約6キロ離れた備中松山城の三の丸で、管理人本原亮一さん(65)がやせこけた猫を見つけた。食べ物をあげていたらいつの間にか城に居着き、誰ともなく「城主」と呼ぶようになった。
ものすごく人なつっこく「これほど人に慣れているなら絶対に飼い主がいるはず」。高梁市観光協会の職員たちが捜していたら、10月中旬に難波さんから連絡があった。近所の人が「よく似た猫がお城にいる」と教えてくれたという。難波さんは連れ帰るつもりだったが、猫が城を気に入っている様子を見て、観光協会に譲る決断をした。
日中、城内のベンチで堂々とくつろぐ。観光客には臆せず近づき愛敬を振りまく。子どもが体のあちこちを触っても逃げず怒らず。
おおらかな城主っぷりは人気を呼び、西日本豪雨で前年同月の2割にまで落ち込んだ来場者数は、ぐんぐん回復し、10月には前年を上回った。
しかし、11月4日。さんじゅーろーは再び失踪した。翌日に東京から取材が来るというので、万一、城を「留守」にしてはいけないと思った観光協会事務局長の相原英夫さん(48)がこの日、自宅に連れ帰ったのがあだとなった。
あちこちにポスターをはり、山…