目に優しく、物が色鮮やかに見える――。従来製品よりも光の波長が太陽に近く、自然な光が出せる「紫色LED」の活用が広がりつつある。これまでは価格の高さがネックとなり、美術館や医療現場の照明に用途が限られていたが、最近は家庭向けの商品も登場し始めた。
家電ベンチャーのバルミューダが今秋、子ども向けのデスクライト「ザ・ライト」を発売した。価格は3万7千円(税別)。自然な光が出せることから、同社が「太陽光LED」と呼ぶ紫色LEDを採用した高級商品だ。
一般的なLEDの照明は青色のLEDを光源としつつ、黄色い蛍光体を光らせることで白色の光をつくるが、太陽光よりも目への悪影響が指摘される青の波長(ブルーライト)が強くなる。一方、紫色のLEDを光源に複数の色の蛍光体を使えば、ブルーライトが抑えられる。目が疲れにくく、光を受けた物の色みも自然に見えるという。
光の角度も調節し、手元に影が映りにくいようにしている。寺尾玄社長は「子どもの目を守りたい親の思いに応えた。この先は『照明は光ればいい』という時代ではなくなる」。今後も紫色LEDを使った商品を増やす方針だ。
京セラは、8月に発売したサンゴの生育用照明に紫色LEDを導入。海中の光を再現し、育ちやすくした。価格は1台約10万円。高級家具のアルフレックスジャパンは京セラ製の紫色LEDを使い、2年前から室内灯「ライトコーン」シリーズを販売している。1台19万8千円からと超高級価格帯だが、家具の本来の色みを楽しみたい人たちなどに受けているという。
紫色LEDは京セラや韓国メーカーのほか、青色LEDの発明で2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が米国で立ち上げたベンチャー「SORAA」なども手がける。
00年代半ばごろから、物の見え方にこだわる美術館や展示場などで徐々に採用されてきた。病院の手術室で使う照明もその一つで、最大手の山田医療照明(東京)の増田順社長は「ほぼ全ての製品が紫色」と話す。手術灯は一般的な室内灯の約200倍明るいため、普通のLED照明だと「ブルーライトで目が痛い、と訴える医師が相次いだ」(増田社長)という。色の濃さで動脈と静脈を見分ける時にも、太陽光に近い性質が役に立つという。
今の価格はまだ、青色より「5~10倍高い」(バルミューダの広報担当者)というが、普及が進めば下がる可能性はある。京セラの柳沢美津夫・メタライズ事業部長は「紫色でしか対応できない分野がある」とし、紫色を中心にLEDの販売を伸ばして23年度の事業売上高を現在の10倍の100億円にする目標を掲げている。