米国との貿易紛争に振り回される中国の養豚場からは悲鳴があがっている=10月7日、河南省新郷、益満雄一郎撮影
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「今年の大豆の収穫はさっぱりだね」。黄河沿いに貧しい農村地帯が広がる河南省新郷。20歳前後の若い農家の男性が大豆畑で顔をしかめた。夏以降、極端な雨と乾燥が繰り返され、天候が安定しなかったことが響いたという。
10月、中国有数の大豆生産地である河南省を取材した。中国は7月、米国の高関税措置への報復として、米国産大豆などに25%の追加関税を発動。大豆が米中貿易紛争を代表する農産品の一つとなったためだ。
米国との貿易紛争に振り回される中国の養豚場からは悲鳴があがっている=10月7日、河南省新郷、益満雄一郎撮影
取材して真っ先に感じたのは、生産性の低さだった。ちょうど大豆を収穫する時期だったが、小規模な畑で栽培され、収穫も手作業。大型トラクターを使うなど機械化が進んだ米国の巨大農場との違いは明らかだった。
背景には、中国では同じ穀物でも農家の収入が多いトウモロコシの栽培が奨励された歴史がある。大豆の農地面積が減少したうえ、品種改良や栽培技術に関する研究も遅れた。
収穫前の大豆=10月6日、河南省周口、益満雄一郎撮影
その結果、主要な生産国との差は歴然と開いた。この30年近くの間にブラジルは大豆の生産量を約6倍、アルゼンチンは約5倍、米国も約2倍に増やした一方、中国はわずか25%増にとどまった。
中国最大の大豆の生産地である黒竜江省では11月、農家に出す補助金を倍増する方針を示し、栽培の奨励に乗り出した。だが、中国農業に詳しい高橋五郎・愛知大教授は指摘する。「政府が急に号令をかけても、良質の種子の確保や栽培技術の研究の蓄積がなければうまくいかない」
米国との貿易紛争に振り回される中国の養豚場からは悲鳴があがっている=10月7日、河南省新郷、益満雄一郎撮影
世界最大の大豆消費国
中国は、世界の大豆の約3割を使用する最大の消費国だ。食生活が豊かになるにつれ、豚肉など肉類の消費量も増え続け、家畜の飼料となる大豆の重要性は増している。
だが、消費量の約9割をブラジルや米国などの外国産に依存しており、自給率は約1割にとどまる。食料安全保障の観点からみれば、非常に危うい構造だ。
豆腐など大豆を使った食品の売り場。「(中国の)東北地方産の非遺伝子組み換えの大豆から製造したので、安心してお買い求めください」と表示している=10月6日、河南省新郷、益満雄一郎撮影
中国は長年、工業化を中核とする経済成長を優先させてきたことが根本的な背景にある。にもかかわらず、中国は11月の米中間選挙を見すえ、農家を支持基盤とするトランプ大統領を揺さぶることを優先。米国産大豆に報復関税を課すというカードを切った。
その影響は「ブーメラン」のよ…