「すごいね。海の上みたいだ」。昨年12月の週末。西舞鶴駅から天橋立駅へと向かう「丹後あかまつ号」が由良川橋梁(きょうりょう)に差しかかると、全33席が埋まった車内から歓声が上がった。橋は約550メートル。数メートル下には川面が迫り、水の上を渡っているかのようだ。通常は時速60キロで駆ける場所だが、15キロまで落とす。ここでは「遅さ」がサービスだ。
特集:テツの広場
若狭湾沿いを走る京都丹後鉄道(丹鉄)の観光列車の人気がじわじわと広まっている。かつて路線の廃止が検討され、平成の不採算路線の象徴だった。丹鉄は「鉄道=移動手段」との発想を転換。自然に囲まれた車窓の風景を楽しんでもらうノロノロ運転に、観光客ばかりか地元住民までもが引きつけられる。
木目調の明るい車内は、海側を向くカウンターやソファなどの座席が並び、飲食のサービスも。喫茶店のような雰囲気の中、走行音がリズミカルに響く。家族4人で乗った舞鶴市引土の会社員、亀村直和さん(42)は「ここは子どもの遊び場です」。長男の倖志(こうし)君(7)は、アテンダントの前田菜津美さん(32)にべったり。駅で声をかけてくれる前田さんが大好きだ。
■540円プラスで「小旅行…