「見た目は女性、声はおっさん」。自らをそう紹介する新顔候補が、1月に投開票された京都府亀岡市議選でトップ当選を果たした。性別適合手術を受け、戸籍を男性から女性に変えた赤坂マリアさん(48)。LGBTの権利や性的少数者であることを選挙戦で強調したわけではない。何が有権者を引きつけたのか。
「亀岡を面白い方向に変えてくれるんじゃないか。そんな期待を感じました」。赤坂さんは選挙戦を振り返る。
7日間、自転車で市内をくまなく回り、その距離は約400キロに達した。政治の世界には初の挑戦だったが、沿道では小学生にも「マリアが来たぞ!」と言われるほど浸透。開票結果は2270票と、次点候補に450票以上の差をつける圧倒的な勝利だった。
出身は大阪府高槻市。小学校時代からゴム跳びが好きで、男の子が熱中する野球は大嫌いだった。バンドをやっていた高校時代は女子生徒の人気を集めたが、自分が同級生の男子に憧れていることに気づき、内面は女性だと確信した。周囲の誰にも打ち明けられず、苦しみ続けた。
土建業を経て、飲食業界で多忙を極めていた27歳の頃、居眠り運転で自動車事故を起こした。3日間にわたって意識を失う重傷。「これからは自分らしく生きる」と決め、性別適合手術を受けた。
OSK日本歌劇団出身のプロにダンスを習い、大阪市淀川区西中島のショーハウスで活躍。男女問わず、ファンの人気を集めた。
母の故郷、亀岡市に移り住んだのは2009年。祖父母の介護をするためだった。その経験を生かし、13年からサービス付きの高齢者向け住宅を経営する。各地の敬老イベントで歌やダンスを披露し、すしやたこ焼きをふるまってきた。
自分の踊りや料理を高齢者たちが手をたたいて喜ぶ姿が「私のエネルギー」と充実感を覚える一方で、「年を重ねるほど外出の機会も減り、日々の楽しみも少なくなってしまう」と危機感を抱くようになった。
昨年からは、地元自治会が運営し、誰でも100円で食事ができる月に1度の「ひゃくまる食堂」に参加。「食事戦隊! マリア隊!」と称し、得意料理を提供する。
地域での活動を続ける中で痛感したのは、高齢化と人口減に伴う市の衰退だ。「蒸気機関車が走っていた頃のほうが、ずっと活気があった」。人を楽しませてきた経験を市の発展に生かそうと考え、市議選への出馬を決めた。
選挙戦で打ち出したキャッチフレーズは、筆で勢いよく書いた「まかしとき!!」。選挙活動を支援した元新聞記者の竹内博士(ひろし)さん(38)は「『明るい亀岡を』や『福祉を充実』なんてありふれた表現ではマリアさんを語れない」と話す。今回の当選について「男か女かなんて関係なしに、有権者が熱意と実績をきちんと判断してくれた結果だ」と手応えをつかむ。
赤坂さんは選挙戦で、小雪が舞うなか国道沿いで腰をくねらせて踊り、人を呼び込むイベントを仕掛けて高齢者も楽しめる娯楽施設を作ろうと呼びかけた。
「自分が苦しんだからこそできることがある」と赤坂さん。今後、事務所に「マリアの部屋」を設け、かつての自分のように性に悩む人たちの相談に乗っていくつもりだ。(安倍龍太郎)