動物の自然な生態や能力を引き出す「行動展示」の先がけとなった旭山動物園(旭川市)。ピーク時には及ばないが、今も全国4位の入園者数を誇る。ペンギンの散歩やアザラシの円柱水槽などの仕掛けが注目を集めるが、その陰には動物園のタブーにあらがうこともいとわない覚悟と地道な努力がある。(井上潜)
特集:どうぶつ新聞
2月中旬、この日も旭山動物園のペンギンの散歩は大盛況だった。くちばしを突き上げたり、羽根をばたつかせたりしながらヨチヨチ歩いていく。つめかけた観光客からは、大きな歓声が湧き起こった。
散歩のスタート地点となるぺんぎん館の前には、開園と同時に人だかりができる。そのすぐ近くの壁に、「喪中」と書かれた小さな看板が貼られている。
ペンギンの死を知らせる「喪中看板」だ。書かれているのは、死んだペンギンの姿や最期を迎えた日付だけではない。「心不全」「出血多量」――。安楽死や動物同士の争いによる闘争死も含め、死因を示している。個体が識別できる全ての動物について、喪中看板を作っているという。
作り始めたのは2004年ごろ。動物園では新しい動物の来園や赤ちゃんの誕生など、明るいニュースの発信に力を入れるのが一般的だ。坂東元(げん)園長(58)は「始めた当時は他の動物園の関係者から『タブーに手を出した』『怖くないのか』なんて言われましたよ」と振り返る。
それでも続けるのは、「明るい話題だけでは命の大切さは伝わらない」と考えるから。「動物園の動物は、人間のために生まれてきた。人間に都合の良いところばかりつまむのではなく、動物たちの最期もしっかり見てほしい」と話す。
ペンギンの散歩が終わってしばらくすると、あざらし館でアザラシの「もぐもぐタイム」が始まった。
「これはショーではありません」。飼育員の鈴木達也さん(26)が、集まった人たちに呼びかけた。アザラシに芸をさせるわけでもなく、淡々とえさとなる魚を投げ与えながら、自然界ではアザラシがホッキョクグマに襲われることなどを解説した。
そして、「動物を見てかわいいと思うだけではなく、看板も読んで人と動物のつながりを考えるきっかけにして下さい」と締めくくった。館内に張り出された看板には、アザラシが漁業被害をもたらすため、捕獲されている現状が記されている。
こうした看板は、ほとんどが職員たちの手作りだ。かわいらしい絵をつけたり、カラフルなペンを使ったりして来園者に伝えたいメッセージを書いている。「若いスタッフたちには自由にやらせていますが、根っこの部分では(私の思いを)分かってもらえていると思います」。そう話す坂東園長の表情は、どこか誇らしげだった。
◇
■入園者143万人 全国で…