太平洋戦争末期、若い保母たちが保育所を東京から疎開させ、53人の幼い命を守り抜いた――。この実話を基にした平松恵美子監督の「あの日のオルガン」が公開されている。疎開の発案者で保母のリーダーを、戸田恵梨香が演じている。
焦土と化した日本「空襲1945」 あの日の惨禍、写真は語る
戸田は言う。「生きることの難しさ、生きていることの喜び。それらを撮影中から感じていました。戦争に限らず、当たり前の日常が突然なくなることがあるんだ、と改めて思わされました。10年、20年先まで長く残ってほしい映画です」
板倉楓(かえで)は戸越保育所の主任保母。空襲が激しさを増す中、子どもたちを疎開させようとするが、親の多くは反対する。それでも埼玉に古い寺を見つけ、疎開を実現する。疎開保育所は問題山積。楓は年の変わらない保母を叱咤(しった)し、必死の思いで解決していく。そして1945年3月10日。東京が大空襲に見舞われる。
最初に出演依頼があった時は悩んだという。「私にこの映画が担えるのか。怖くて返事が出来なかった。でも、私は阪神大震災を経験しています。何か伝えられることがあるんじゃないかと思いました。私たちが戦争を知る人たちの声を届けられる最後の世代になっています。私に出来るのはお芝居しかないですから」
楓先生は「戸越保育所の怒りの乙女」とあだ名されている。上司に怒り、仲間に怒り、そして何よりも戦争の理不尽に怒っている。
「普段、怒りをぶつけたり、大勢の人を率いたりすることがないので、とても難しかったです。楓先生には重い責任がのしかかっていた。主任保母といってもまだ経験の少ない若い女性ですから、きっと苦しかったんだろうと思います」
楓先生は、少し抜けたところの…