「奇跡の一本松」がある岩手県陸前高田市。かさ上げ地に、ぽつんと明るさを取り戻した一角がある。ここで昨年末に自宅を再建した元大工の菅野啓佑さん(77)は11日朝、27枚の黄色いハンカチがはためく支柱の先に、大漁旗を結わえ付けた。地元では長年、幸せを運ぶ「福来旗(ふらいき)」と呼ばれてきた。
「黄色いハンカチ」の幸福論 山田洋次監督と考える復興
「あの人」を忘れない
特集:東日本大震災8年
午後2時46分、各地で鎮魂の祈り 東日本大震災8年
今泉地区の600軒は津波で2軒しか残らず、市内では約1800人が犠牲になった。菅野さんも自宅や姉の悦子さん(当時75)を奪われた。
隣町にできた遺体安置所で、息絶えていた姉をみつけた。普通の状態で急に亡くなったなら悲しみに暮れるんだろうけど、あの時は正気を失っていた。家族みんな流されたって人もいたからね。それを思うと気の毒で、悲しんでる余裕もないというか。
ハンカチは約2カ月後に掲げた。絶望の中、思い出したのが若い頃に出稼ぎ先で見た、山田洋次監督の映画「幸福の黄色いハンカチ」だった。
ロープに40センチ角ぐらいに切った黄色いハンカチを結わえ付けて。再出発の意味をこめて福来旗もとりつけた。「人がたくさん死んでいるのに何が大漁旗か」と怒る人もいた。でも、福来旗だって言ったら複雑な表情で納得してくれた。なんでこんなこと、したかったんだろうなあ。なんか生きる希望って言うの、そんなのがほしかったんだと思うけど。
ほどなく菅野さんにはがきが届…