新元号「令和」の典拠になった万葉集に、注目が集まっている。万葉学者の品田悦一(よしかず)・東京大教授は、万葉集が近代以降、「愛国」に利用された歴史を指摘し、「初の国書」を歓迎するムードに警鐘を鳴らす。
【特集】平成から「令和」へ
万葉集は、奈良時代に編集された日本現存最古の歌集とされ、平安時代から歌人や国学者らの手でたびたび書き写され、訳され、評価されてきた。
品田さんは、「問い直したいのは、万葉集そのものの価値ではなく、利用のされ方です」。品田さんが20年来提起している説はこうだ。明治時代に近代国家をつくっていく時、欧米列強や中華文明への劣等感から、知識人は国家と一体となって「国民詩」を探した。そこで、庶民には無名に近かった万葉集が、「日本には世界に誇る万葉集がある」という言われ方で、「わが国の古典」の王座に据えられ、国民意識の形成に利用されたのではないか――。
明治以降の熱心な国語教育によって、日本人の多くが知ることになったが、「江戸時代の長屋住まいの庶民は存在すら知らなかったでしょう」。
その根拠として品田さんはまず…