平成を通じて、日本の財政は膨らみ続けた。国の一般会計の歳出は100兆円規模、国と地方の借金は1千兆円と国内総生産(GDP)の約2倍に匹敵する。なぜこんな状況に陥ったのか。どうすればよかったのか。地方財政審議会会長などを歴任し、政府の経済財政運営に物申す立場だった財政学者の神野直彦さんに聞いた。
――国の財政からみると、平成はどんな時代でしたか。
じんの・なおひこ
1946年生まれ。東京大学教授、関西学院大学教授を経て2017年から日本社会事業大学学長。政府の税制調査会や地方財政審議会の要職歴任。
「『悪循環』の時代です。経済成長をめざして減税したものの、増収も成長もできず、社会保障サービスは抑制が続き、貧富の差が拡大した時代だといえるでしょう。本来の財政とは、社会に生じる様々な困難を解決して、国民を幸せにするもの。それなのに、財政が逆に人々を不幸にしてしまった。財政の機能不全です」
――元年(1989年)に消費税が導入され、段階的に税率が引き上げられた平成は「増税の時代」だったのでは。
「それは誤解です。国民所得に対する租税の負担率をみると、平成のピークは89年度、90年度の27・7%。その後は下がりました。最近は持ち直したものの2018年度は24・9%です。昭和の時代は国が借金をしても財政赤字はさほど増えなかった。税収も増えていたからです。平成に入ると税収が一気に落ち、歳出との差が広がった。90年代前半まではバブル経済の崩壊が原因でしたが、後半以降は政府が構造改革の名の下で進めた政策減税によるものでした」
――何のための減税だったのでしょう。
「経済成長をとにかく追求したのです。『上げ潮政策』と呼ばれた減税重視の財政運営は、活力ある社会、努力ある者が報われる社会をめざしました。経済の牽引(けんいん)役が伸びれば、低所得層にも恩恵が行き渡る『トリクルダウン』が起き、税収も増えるという算段でした。しかし経済は成長せず、税収は下がる結果になりました。一方で、歳出は社会保障を中心になだらかに増え続けたため、雪だるま式に赤字が膨らんでいきました」
――なぜそんな過ちを犯したのですか。
「そもそも国の税制論議が『減…