「福岡発 脱力系ラグビー漫画 ラグ村ラグ江」。福岡市役所のホームページ(HP)で連載中の漫画がラグビーファンの間でひそかに人気を博している。
登場するのは、なぜか楕円(だえん)のラグビーボールの形をした着ぐるみを身にまとうOLラグ村ラグ江と、痛快なツッコミを繰り出すネコさん。
ルールなどまったく知らないラグビーの素人が、たまたま見たワールドカップ(W杯)のCMをきっかけに勝手に盛り上がるという設定。2年前に始まり、2週間に1話のペースで更新され、これまでに計47話(4月27日現在)を数える。
作者はラグビーワールドカップ2019福岡開催推進委員会の吉村衣恵(きぬえ)さん(34)。長崎県佐世保市出身で、高校卒業とともに福岡市役所に就職した。
もともと漫画を描くことが好きだった。専門的に学んだことはないが、以前の職場の市植物園や市水道局では、自己流で刊行物にキャラクターを描いてきた。
吉村さんが今の職場に移ってきたのは17年4月。発足間もない部署で、W杯のPRのためにHPを見やすいようにしたいという話になり、女性職員5人が集まって頭をひねった。
ある人が冗談交じりに言った。「欧米のファンみたいに、吉村さんの顔にペイントしてHPに載せればいいんじゃない?」。盛り上がったが吉村さんは内心、焦った。「これはまずい」
代わりに思いついたのが得意のイラスト。やってみると一発で描き上がった。スムーズに第1話が完成したので「いける」と思った。
作品では、キャラクターが素人目線に立って疑問を解決していく。第3話「ラグ江、チケットを買う」では、チケットの値段や会場へのアクセスを紹介した。
読者との自然なやりとりも人気の理由の一つだ。
第7話「学ぶラグ江」で、珍しくルールを学ぼうとしたラグ江とネコさん。ラグ江が丸めたティッシュを目の前にいたネコさんにいきなり投げ、ネコさんがそれを前に落とすと、ラグ江が「ノッコン(ノックオン)!」(ボールを自分の体の前に落とす反則のこと)と言っておかしがる。
すると、読者からは「ラグ江はスローフォワードをしているのでは?」と鋭い突っ込みが入った(ラグビーではボールを前にパスすると反則)。続く第8話の欄外で、これに回答しつつ感謝の言葉をつづった。
できあがった漫画を最初にチェックする広報担当の重岡清貴さん(46)も、すっかりファンの一人だ。「そうくるか、という話のおもしろさが魅力です」
ファンの数も増え、仕事で訪れたトップリーグの試合会場では、読者から「ラグ江さんですか。漫画、おもしろいですね」と話しかけられるまでになった。
目下、吉村さんの最大の関心事は、福岡市でW杯の試合がある平日に、いかに市民に休暇を取ってもらうか、だ。
第34話「伝授するラグ江」。ラグ江が課長に提出する書類には付箋(ふせん)が貼ってある。そこには「休む日 9月26日 10月2日」の文字が。福岡市で試合がある平日の2日間だ。「運営で休めない私の分まで生で見て欲しい」という思いから、こうした涙ぐましい「工作活動」の例を紹介する吉村さん。「サッカーW杯みたいにみんなで楽しめる大会になるように、ラグ江とともに盛り上げていきたい」と意気込む。(岡純太郎)