宝塚歌劇「ベルサイユのばら」初演から今年で45年。時代を超えるベルばら人気の秘密を探るため、記者は初演当時の宝塚に「タイムワープ」する形で関係者にインタビューする企画ができないかと考えた。
そんなアイデアを、初演でオスカルを演じた榛名由梨さんに話すと「いいじゃなーい! 楽しそうだわ!」とノリノリ。というわけで、現在も女優として活躍する榛名さんの協力を得て、1974年、初演直前の緊張しきった榛名さんに、時空を超えた「特別インタビュー」を試みた。
【前編】「ベルばら」が起こした宝塚革命 2週間並んだあの時代
緊張で舌がもつれちゃいそう
――あっ、月組の榛名由梨さんだ。鏡に向かって何か独り言を言っている……
私はオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。私はオスカル・フランソワ……
――榛名さん!
あなた誰? 緊張で舌がもつれちゃいそうだから、最後の練習中なのよ、今。
――すみません、私、2019年から来た者です。そんなに緊張を?
当たり前じゃない。私が演じる男装の近衛隊長・オスカルは、劇画の中では12頭身くらいあって、本当に素敵なキャラクターなの。私がイメージを壊しちゃったらどうしよう。今日は原作ファンも見に来ているんでしょう? 「引っ込め」なんて言われないかしら。
耳に残った配役発表の反応
――わかりません……
あなた、配役発表の場にいた? 別の組の公演の千秋楽で、初風諄(はつかぜ・じゅん)さん、大滝子(だい・たきこ)さんがカーテンコールで出てきて発表したでしょ。あの時の観客の反応を?
――知らないです
まずフランス王妃マリー・アントワネット役に初風さん。王妃の道ならぬ恋の相手、フェルゼン役が大さん。「キャーッ!」というすごい歓声が上がって。
――そうなんですね
そして、フェルゼンに思いを寄せる私、つまりオスカル役の発表で反応が一変したのね。「ウオーッ!」という地鳴りのような声。あのオスカルを本当に生身の人間が演じるのか、本気か――。そんな驚きと疑念が混じっていたかも。今日まで耳を離れなかったわ。
劇画を横にメイク
――榛名さん、原作のオスカルそっくりですよ!
だとしたら長谷川一夫先生の指導のおかげね。映画や時代劇で活躍した大スターで、今回の演出を担当して下さった方なんだけど、「オスカルな、劇画そっくりに描くんやで」って。
――どのように?
劇画を横に置いてね。眉毛の角度はどうだ、細さはどうだ……って、忠実に再現したメイクにしたのよ。
――劇画の世界に徹底して近づける、と……
長谷川先生は徹底しているわ。例えば、生身の人間は劇画のように目から星は飛ばせない。でも、舞台照明の光を役者の目がうまくキャッチできれれば、ライトが瞳にキラキラ反射して見える。先生はその位置や方向を計算し「客席の1列目の23番あたりに目線を据えて」などと、それはそれは厳しく指示されたのよ。
――楽ではないですね
神は細部に宿るってことね。でも、私も男役12年目。「男役はサマになるのに10年かかる」と先輩方に言われただけの時間を過ごしてきたから。それに私自身、一人っ子で、厳しい父親から「男の子」のように育てられたところがあって。おままごとより木登りが好きな子どもだったし。
オスカル役は運命だった
――オスカルの境遇とどこか似ていますね
幼なじみの従卒・アンドレからオスカルに寄せられる思いも、オスカルをかばって敵弾に倒れるアンドレの死も、オスカルの心情で受け止められる。今では、この役を得たのも一つの運命と思うようになったわ。
――身の回りの変化は?
これまでも私を応援してくれている人から「ショーちゃん!」と愛称で声をかけられることはあったけど、最近は原作のファンらしい人から声がかかることもあって。光栄だけど、これはオスカルの人気であって、私の実力じゃない。だからこそ、しっかりやらないと……。
一世一代の「今宵一夜」
――見どころは
オスカルは革命の動乱下、立場を捨てて市民側につくことを決意するのよ。出動直前、アンドレとついに結ばれる「今宵一夜(こよいひとよ)」は一世一代の見せ場ね。結婚の約束を果たせず、バスチーユで倒れる結末につながる重要な場面だからね。
――まもなく開演…