女優のいとうまい子さん（５４）に先月、人工知能（ＡＩ）関連の展示会でお目にかかった。「元アイドルの伊藤麻衣子さん」と書いた方が、５３歳の私と同世代の人にはピンとくるだろうか。

彼女はいま、早稲田大大学院の博士課程で、予防医学のロボットを開発する研究をしている。

ＡＩは天使か悪魔か 「間違えぬはず」妄信が招く分断

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９年前に早大人間科学部（通信教育）に入った。大学３年のとき、がんで父親が入院し、数カ月で足腰が弱って寝たきりになった。健康なうちに下肢筋力を鍛える大切さを感じ、骨や関節などの運動器が衰える「ロコモティブシンドローム」を予防する研究にとりくんでいる。

大学院では小さなウサギ型ロボットを開発した。きまった時間にお年寄りに運動をよびかけて、一緒にスクワットをしてくれる。

大学に進んだのは、高校を出てデビューして四半世紀が過ぎたころ。「芸能界で仕事を続けてこられたのは周りの人のおかげ」であり、恩返ししたいと考えた。社会に出てから学び直す「リカレント教育」の先がけともいえる。

ＡＩ社会を前に「学び直し」を唱える声をよく聞く。ＡＩが人を超えるシンギュラリティー（技術的特異点）は当面こなくても、技術革新で多くの仕事がＡＩにとってかわられる。社会としてどんな備えが必要か、経済企画面で始めた新連載「シンギュラリティーにっぽん」のテーマでもある。

いとうさんは大学在学中にロケと期末試験が重なり、徹夜で数日勉強したら帯状疱疹（ほうしん）になったことがある。仕事との両立は大変だが、「自分をアップデートすれば新しい世界に会えます」と学び直しをすすめる。

今年１月、東京のＡＩベンチャー、エクサウィザーズにフェローとして迎え入れられた。人の動きをＡＩで解析し、改善点を提案するロボットを開発する。「人生１００年時代に向けて、健康寿命を延ばすことに役立ちたい」

令和の時代、技術革新や超高齢社会は進む。さまざまな特異点を迎える日本の未来に自分は何ができるのか？ ＡＩと老いる社会の接点をみつけた同世代の元アイドルに会って考えこんでしまった。（編集委員・堀篭俊材）