伝統的な手すき和紙づくりの存続が危機を迎えている。生産に不可欠なトロロアオイを栽培する茨城県小美玉市の農家5戸が、来年で作付けをやめる方針を決めたからだ。この5戸で全国生産の7、8割を占めており、和紙生産者には大打撃になりかねない。
「もう無理、割に合わない」
作付けをやめる最大の理由は高齢化だ。5戸の農家はいずれも60代~70代半ば。昨年、全員で協議のうえ「これ以上続けるのは難しい」と判断した。昨秋の出荷の際、2020年秋以降は生産できないと伝える文書を添えた。
最年少の田上進さん(63)と妻の敏枝さん(60)は、ジャガイモなどの野菜とともにトロロアオイを栽培する。年齢もあり、最も多く作付けしていたときの半分の約15アールに減らした。「要望があるので続けてきたが、もう無理。体はきついし、(収入を考えると)割に合わない」と心境を明かす。
トロロアオイはアオイ科の植物で、秋に収穫する。根からつくる「ねり」は手すき和紙づくりに欠かせない。日本特産農産物協会のまとめでは、16年度の国内生産量の87%(17トン)、17年度の同67%(13トン)を、小美玉市小川地区で栽培している。
栽培が大変なのは機械化が難しいからだ。商品となる根の部分を太くするために新芽を摘み取る「芽かき」は、夏の炎天下に手作業で行う。農薬に弱く除草剤が使えないため、草取りも手作業だ。重労働が嫌われ、繁忙期のパート従業員を集めるのにも苦労しているという。
同市では約30年前、約50戸が栽培していたという。その後減り続け、ここ数年は、和紙生産者の需要を満たせない状態が続いてきた。以前から農協に苦境を訴えてきたが、国や県から補助金などの支援はないという。
田上さん夫妻は「買い取り価格が倍になったとしても、子どもの世代に続けてくれとは言えない。和紙という伝統産業を守るのなら、支えている農家にも目を向けてほしい」と話す。
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