「まだまだ勝手に関西遺産」
滋賀は琵琶湖だけじゃない。県東部の近江八幡市に、男性客が全国からやってくる小さな散髪屋がある。
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「スーパーヘアーまほうの手」。近江八幡駅から約3キロ、周囲には田んぼ。「まいど」。迷彩柄パンツ、サングラスに刈り上げヘア、厚い胸板の野田光徳店長(52)が現れた。
歌手長渕剛さんの「Success(サクセス)」を毎朝爆音で聞き、テンションを上げてから出勤する。店内の散髪スペースはわずかで、音響設備の方が目立つ。お客が来る前に、汗でシャツをダラダラにして長渕ソングを3、4曲歌っているらしい。
13年前に父親が他界し、長渕さんの「鶴になった父ちゃん」に支えられた。以来ファンに。理容師の目線で見ると、長渕さんの髪形が年代や曲ごとに微妙に変わっていることに気づいた。雑誌などを参考に研究を重ね、10年以上かけて100種以上のすべての髪形をマスター。「長渕ヘア」が店の名物になった。
長渕ヘアは耳の後ろなど要所を刈りすぎると別人になる。文字通り、危機一髪の髪形で、野田さんの高い技術は口コミで広がった。「(今の技術では)限界です」。他店でさじを投げられた人たちが、近畿一円はもちろん九州、東海、果ては中国大陸から訪れる。一日約10人の客のうち3、4人が長渕ヘアを注文する。
大阪の清掃業吉田健一さん(4…