【メルボルン(豪州)堤浩一郎】当地で開かれている体操の第38回世界選手権で、米国生まれの“日本人”が復活を果たした。米国代表で男子種目別に出場したユーキ・トミタ(25)=日本名・富田勇樹。決勝進出はならなかったが、けがを乗り越えて6年ぶりに世界の舞台に戻って来た。
22日の予選は、あん馬が19位、鉄棒は18位で予選敗退ながらも、鉄棒では大技で館内を沸かせた。「体操をやっていると、生きている感じがする」。たどたどしいながらも、しっかりとした日本語で喜びを表現した。
父洋一さん(50)は群馬県出身。高崎工高時代は高校総体で個人総合2位の実績を持つ。コーチ理論を学ぶために18歳で単身渡米。00年のシドニー五輪では米男子チームのコーチも務めた。
英才教育を受けたトミタは、99年の世界選手権に19歳で出場。個人総合23位と将来を嘱望されたが、肩のけがに悩まされる。両肩を計4度も手術して、限界を感じた3年前には引退も考えた。
この時、洋一さんは「せっかく15年も体操をやってきた。半年待って結論を出そう」と助言した。3カ月ほど過ぎたころ、「もう一度体操をやりたい」という息子の力強い言葉が返ってきた。
そして、再びつかんだ代表の座。22日の予選には洋一さんと母節子さん(55)、妹直美さん(23)の家族全員が駆けつけた。洋一さんには人生節目の50歳の誕生日で、「初心に戻って体操に打ち込む息子を、誇りに思えた」。眼鏡の奥の細い目が、喜びに満ちていた。
毎日新聞 2005年11月24日 9時47分 (最終更新時間 11月24日 10時01分)