伝統的な弦楽器・ルバーブの哀愁を帯びた音色に自然や人の映像が重なる舞台の雰囲気は、爆発音と旧ソ連機の写真で一変する。自ら演出・出演する演劇「鏡を越えて」のオープニング。10月、初めて日本で公演した。
旧ソ連の侵攻、内戦、タリバン政権の圧政と、9・11後の米国の攻撃……。苦難のアフガニスタン現代史を描いた作品は、影絵なども使い幻想的だ。一方で、地雷に触れ命を落とす幼児や武装勢力に拉致される女性ら、市井の人々に焦点を当てる。
「私たちアフガン人に何が起きたか、真実を伝えたい。アフガン人も皆さんと同じ人間。戦争が続くのは、攻撃的だからではなく、侵略から守るためなのです」。自国の苦難を、普通の人々を襲った悲劇だと訴える。
軍人の父は「軍人か医者に」と望んだが、幼いころインドの娯楽映画に夢中になった経験が忘れられず、カブール大で演劇・映画を専攻。放送局の演出家だった96年、娯楽を禁じたタリバン政権からパキスタンへ逃れた。00年にペシャワルで、他のアフガン難民らと「エグザイル・シアター(亡命劇団)」を結成し、03年に帰国した。
最近、男女の恋愛の障壁をテーマにした短編コメディーを撮影した。「新憲法制定で自由と民主主義になったはずだが、実際は愛し合う2人が(公共の場で)会って話すことすらできない。障壁は、伝統と宗教と社会」。活動を通じて「アフガンも、アフガンへの悪いイメージも変えたい」と望む。【服部正法】
【略歴】マフード・サリーミさん カブール生まれの30歳。「鏡を越えて」は米劇団「ボンドストリート・シアター」との共同制作。「第5回AsiameetsAsia2005」に参加し東京と奈良で公演した。
毎日新聞 2005年11月25日 0時44分