辞めたいが辞めさせてもらえない」といった従業員からの問い合わせが労働組合などの相談窓口に増えている。会社から「代わりを探してから辞めろ」と言われたり、「辞めたら損害賠償を請求する」などと脅された深刻なケースも多い。景気回復による人手不足やリストラで仕事が特定の人に集中している最近の労働環境が背景にあるようだ。【佐藤賢二郎、東海林智】
NPO法人「労働相談センター」(東京都葛飾区)では、「解雇」や「賃金」に関する相談が01年をピークに減少、この数年は「辞められない」など「退職」に絡んだ相談が増えた。同種相談は昨年559件で、98年の5.5倍だ。プログラマーや看護師など専門知識を必要とする20代後半から30代の若者が多い。会社は、中小企業が大部分だという。
システム開発会社で働く男性(29)は、3月末に退職を申し出たが「開発案件が終わる9月までは認めない。辞めるなら数百万円の損害を払え」と要求された。幹部から怒鳴られ、「転職先に仕事を放り出して辞めたと伝える」と言われ、辞められない状態が続く。
老人ホームの運営担当だった男性(32)は、待遇への不満から昨年12月、2カ月後の退職を申し出ると「辞めるなら10人入居者を増やせ」と言われた。労働基準監督署に相談して辞めることができたという。
また、スーパーなど流通系の労組幹部は「スーパーでは人手不足で職場が崩壊寸前の所もある。パートも仕事量が増えても賃金は上がらず、『辞めたい』と言う人が増えている」と話す。
こうした状況について、「労働組合ネットワークユニオン東京」(同渋谷区)の古山亨書記長は「02年ごろから『働きすぎ』が深刻化し、『このままでは死んでしまう』という相談が増えた。リストラ時代をこうして頑張った人たちが退職や転職を希望しても、会社側が『辞めさせない』という対応に出ている」と話している。
毎日新聞 2006年6月14日 15時00分