早稲田大理工学部の松本和子教授(56)が01年に発表した論文に不正が疑われている問題で、当時、研究室に在籍した研究員や学生が「論文のデータは大きな誤差を含んだ値で、間違いだ」と指摘していたにもかかわらず、松本教授が聞き入れなかったことが分かった。複数の関係者が毎日新聞の取材に答えた。松本教授は、この論文で報告した業績をもとに、国の競争的研究費を少なくとも3件獲得している。研究員らは早大の調査にも同様の証言をしているという。
問題の論文は中国から留学していた中国人研究者と松本教授の共著で、米化学会誌の01年4月15日号に掲載された。テルビウムという金属の化合物をたんぱく質やDNAなどの生体分子につけて光らせ、ごく微量でも分析できる手法に関するもので、化合物に吸収させたエネルギー(光子)が100%、蛍光として放出されると報告した。
専門家によると、100%という値は理論的にはあり得るが、実験で出ることは非常にまれとされる。このため、研究員らは同じ条件で再現実験した。その結果、50%を切る値が測定され、松本教授に「論文のデータは処理に不可欠な補正操作をしておらず、誤差が大きい」と何度も指摘した。これに対し、松本教授は「解釈の問題だ」などとして、指摘を受け入れず、論文の撤回などはしなかったという。
また、研究員らは、生の実験データや解析に使ったデータを探したが、見つけられなかった。
松本教授はこの研究を国の「戦略的創造研究推進事業(CREST)」の研究費(97~01年度)で実施した。事後評価書では、この論文の成果を強調、02年度にも同研究費を引き続き獲得した。総額2億9700万円(02~05年度分、計6チーム)の一部を使って、06年度まで5年間の予定で研究を続けていた。【須田桃子、元村有希子】
毎日新聞 2006年7月5日