アスベスト(石綿)関連がんの中皮腫に苦しむ兵庫県伊丹市の土井雅子さん(58)ら女性2人の肺組織から、青石綿が検出された。土井さんは、クボタ旧神崎工場(同県尼崎市)で青石綿が使用されていたころ、近くに居住。昨春、同社に対して最初に被害を訴えた3人のうちの1人だ。多くの患者や遺族の悲しみを代弁するかのように、数十年の時を経て現れた青石綿。「私の胸から出た青石綿は因果関係を示す動かぬ証拠」。土井さんは、そう訴えた。
土井さんは生まれてから20歳で結婚するまで、同工場近くの自宅で暮らし、小中学校に通った。04年7月、医師から「中皮腫。おおかたそれは悪性や」と告げられ、同年10月、左肺の摘出手術を受けた。病気の理由に心当たりはなかったが、自分以外にも石綿関連の仕事歴がない中皮腫患者が近くにいるのを知り、「環境問題かな」とクボタに疑問をぶつけ続けた。
クボタショックが発覚した昨年6月末以降、同工場周辺の中皮腫患者は100人以上に膨れ上がり、土井さんは工場と発症との関係を確信した。クボタ側は今年4月に、事実上の補償として「救済金」を支払う約束をしたが、「因果関係は不明」と繰り返した。土井さんは、その度に「すっきりせず、心残りだった」と感じたという。
もう1人は、昨年5月に66歳で死亡した大阪府羽曳野市の主婦、佐藤恭子さん。1960年ごろ、同工場の北約250メートルにあった金属加工工場で働いていたが、そこでは石綿を使用していなかった。03年に中皮腫を発症し、右肺などを摘出。胸や背中が痛み、最後はモルヒネが効かなかった。
土井さんも佐藤さんも青石綿は、手術で摘出した肺から出てきた。土井さんは「やっぱりと思ったが、不思議で悔しい感じ。でも私の胸から出た青石綿は、動かぬ証拠。クボタさんにはこれを踏まえてはっきりと話してほしい」と願う。
患者支援団体「関西労働者安全センター」事務局次長の片岡明彦さん(47)は「旧神崎工場も今は跡形もない。だが、土井さんたちの肺に突き刺さった青石綿は残った。そこに患者や遺族の悲しみが凝縮されているようだ」と話した。【大島秀利】
◇「クボタ社長は心から謝罪を」
土井雅子さんと佐藤恭子さんの夫(72)らは19日午前、尼崎市内で会見。土井さんは「こんなに青石綿が入っていたんだなって。ショックなこと。でもこれでクボタとの因果関係が明確になった」と自分自身を納得させるように切り出した。抗がん剤の影響で髪の毛がすぐに抜けるといい、「(クボタの)社長には心からの謝罪を願うばかり」と語った。
毎日新聞 2006年7月19日 15時00分