懸命に災害を防ごうとした消防団員の命が、無情にも土石流にのまれた--。長野県岡谷市消防団第7分団員、小坂陽司さん(45)は19日未明、激しい雨の中、同市湊で起きた濁流が住宅に入らないよう土のうなどで止める作業に、団員7、8人と取り組んでいた。同午前4時半ごろ、最初の土石流が発生。危険なため撤収しようとした直前、再び起きた土石流で命を落とした。
小坂さんは同市のエレベーターメンテナンス会社勤務のかたわら、20年ほど消防団員を務めていた。団員は通常、分団長の下の「部長職」を務めると一度引退するのに、小坂さんは「もっと協力したい」と部長職後も平団員を続けた。経験豊富で人望も厚く、次の分団長候補に推されていた。
「必ず、自分の安全を確かめろ」。同分団の伊藤豪茂さん(33)は、いつも現場で後輩にそう指示する小坂さんの言葉を覚えている。
同じ現場で土石流に襲われた花岡義樹分団長(46)は「激しい流れが起きてあわてて逃げた。気が付いたら、小坂さんが……」とうつむき、「消防にとても熱心に取り組んでいた。誰とでも気さくに接し、明るく愉快な人だったのに」と仲間を悼んだ。【吉見裕都】
毎日新聞 2006年7月20日 20時12分