東電によると、損傷を受けた送電線は「江東線」と呼ばれ、27万5000ボルトの高圧電流が流れていた。送電線は2系統あり、1系統には3本ずつ送電線が通っている。どちらかの系統が損傷を受けても、もう一方の系統で送電を続けることができるが、今回は2系統とも損傷を受けた。
発電所で発電された電気は約50万ボルトの高電圧で、それを徐々に下げながら家庭などに届ける。ところが現場は、変電所を1回経ただけの段階で、送電系統の上流に位置していた。下流側の変電所5カ所で送電網を守るための保護装置が働き、次々と停電が起きた。
現場の送電線の高さは、旧江戸川の水面から約16メートルのところを通っていた。電気保安規則に基づき、河川管理者と調整して高さを決めたという。 国内では99年11月22日、埼玉県狭山市の入間川河川敷に自衛隊機が墜落し、今回と同じ27万5000ボルトの送電線を切断した。この時には東京都や埼玉県南部の80万世帯が約4時間停電し、地下鉄、信号機が止まるなど都市機能に影響が出た。東電によると、今回の事故は「それ以来の規模」だという。
米国でも03年8月14日、ニューヨークなど北米東部からカナダ東部にかけての広い地域で大停電が起きた。発端は、米オハイオ州内にある3カ所の34万5000ボルト高圧送電線に樹木が触れたことだった。
電力中央研究所の谷口治人・システム技術研究所長によると、変電所で27万5000ボルトに電圧を落とした後は、「放射状運用」という、川の上流から下流に枝分かれしながら電力が流れる一方通行のシステムになっている。この段階で今回のような事故が起きれば、事故地点より下流はすべて、いったん停電するしかないという。「テロのように意図的に切ろうとすれば、同様のことが起こりえる」と指摘する。
技術評論家の桜井淳さんは「落雷や、家庭に近い部分での電線の切断については電力会社も危険性を見込んで対策を取るが、今回の事故は想定外だっただろう。大木の幹の根本付近がやられたようなもので、枝葉への供給が止まる」と話す。【永山悦子、山田大輔】
毎日新聞 2006年8月14日