2004年9月2日から始まった「東京国際デジタル会議」で講演に立った三洋電機 代表取締役社長の桑野幸徳氏は,日本の電子産業が目指すべき方向性や三洋電機の取り組みなどを語った。
今後目指す方向について同氏は,過去に日本の電子産業が作り出したヒット商品を列挙しながら「強い部品作りに軸足を置き直すことが重要」だと説いた。同氏は,1990年代はOSやマイクロプロセサの開発で米国メーカーが,携帯電話機の開発は欧州メーカーがそれぞれ主導権を握り,日本メーカーは自信を失った時代だったと振り返る。しかし,デジタル家電時代を迎えてコア技術や部品で優位性を持つようになり,日本メーカーは強さを再び取り戻しつつあるとした。具体的な戦略としては,技術と部品を囲い込み,複数の技術をすり合わせるノウハウを確立し,知的財産で障壁を作る「技術のブラックボックス化」が重要だとした。そして「『失われた10年』などというのはもうやめて前向きに進めば,現在20兆円産業であるデジタル家電は,2010年までに30兆円規模にまで成長させられる」と来場者を鼓舞するメッセージを送った。
三洋電機の取り組みとしては,まずデジタル家電関連のビジネスが拡大している現状を報告した。AV機器,電池,デバイスで構成するデジタル家電関連の売り上げは1999年度に70%だったが,2003年度は80%にまで向上しているという。この10年でゼロから立ち上げた事業として携帯電話機,デジタル・カメラ,液晶プロジェクタを挙げ,「いずれも競争は厳しいが,やり方次第で大きくできる市場だ。現在では当社だけで6000億円の売り上げがある」とした。3事業のすべてに共通するのが強い部品だという。
地上デジタル放送による携帯電話機向けサービスについては「社会インフラとして早くやるべきもの」だとした。中国などでも同様のサービスが始まる予定だがいち早く日本で始めることで,「新しい製品をインキュベート(孵化)してくれる豊かな消費者」を背景に,日本メーカーが産業競争力をつけることができるからだ。
白モノ家電にも部品のデジタル化が進んでいる例を紹介した。同社の洗濯機に搭載される「G-FALL」と呼ぶ脱水時のバランス制御技術である。ドラムの両側面に配置したバランスボックス内の水を衣類の偏りの少ない方に移動させることで,ドラムのバランスを最適な状態に制御できる。同制御技術はDSP上のプログラムで実行しており,「デジタル技術を白モノ家電に展開することは重要なテーマ」だとした。 |